はじめに
「卵は一つのカゴに盛るな」
投資の世界では常識ともされる格言です。
すべて一つの投資先にお金を突っ込んでいるとその会社になにかおきればすべてのお金を失うので
投資先は分けましょうということですね。
いたるところで分散投資はよいとされる一方で、
ウォーレン・バフェット等の著名な投資家は必ずしも分散投資が有効ではないと主張されています。
今回は、分散投資がなぜ有効なのか、問題点はどこにあるのかを徹底解説していこうと思います。
低リスクハイリターンの分散投資
リスクとリターン
まずものすごく基本的なところから始めましょう。
リスクとリターンの関係です。
以下の記事に詳しく書いてありますが、リスクが高い投資はリターンが高く、リスクが低い投資はリターンが低いという当たり前の関係です。
図で表すとこんな感じでした。
ここでリスクとは、ファイナンスの世界ではリターンの振れ幅を表していたことに留意しましょう。
(株価が想定よりも下がる可能性だけでなく、上がる可能性もリスクととらえます。)
分散投資の威力
さて、先ほどの図は一つの銘柄に投資したときのリスクとリターンの関係でした。
これを二つの投資に変えたらどうなるかというのが今回の記事になります。
コンセプトを理解するにはまず極端な例を考えてみましょう。
傘屋さんとビール屋さんへの投資を考えます。
話を簡単にするために1年目に投資して2年目に売却するモデルを考えます。
傘屋さんは雨が多いと儲かり、1年後に株価が110円になりますが、晴れの日が多いと傘が売れず株価は90円に下がります。
一方で、ビール屋さんは雨の日はビールが売れないため雨が多くなると株価が下がります。
これらの会社に投資することを考えてみましょう。
雨の日が多くなる確率は50%、晴れの日が多くなる確率は50%と考えてみましょう。
まず傘屋にのみ投資した場合のリターンは次のようになります。
同様にビール屋は次のようになります。
それぞれに投資した場合のリターンは、5になります。
リスクは、厳密な計算は省略しますが、晴れの場合も雨の場合も期待リターン(平均的なリターン)に対して実際のリターンが15離れていますのでリスクは15になります。
さてでは両者に50円ずつ投資するパターンを考えましょう。
先ほどの投資額の半分になりますので、リターンも半分になります。
ここで注目したいのは、雨の日でも晴れの日でもリターンが5になるということです。
つまり平均リターンが5で変わらないまま、リターンの変動幅=リスクを0にできます。
これは、傘屋とビール屋が完全に反対の動きをするために、変動のリスクを打ち消しあっているためです。
では、逆の動きをするわけではない、アイスクリーム屋とビール屋で考えてみましょう。
アイスクリーム屋を以下のようなリターンだと仮定しましょう。
期待リターンはわかりやすくするために5で統一しています。
アイスクリーム屋とビール屋のに50%ずつ投資した場合のリターンは、
合計欄に注目してみましょう。
ビール屋と傘屋への投資の場合は、雨が多くても、晴れが多くてもリターンが5となり、リスクが0でした。
一方で、アイスクリーム屋とビール屋の場合は、雨の日が-4、晴れの日が14と大きく結果に差があります。
期待値5に対して、それぞれの結果が9離れていますので、リスクは9です。
図でまとめてみましょう。
同じような値動きをするアイスクリーム屋とビール屋は、1社に投資するよりはリスクを抑えられてましですが、違う値動きをする傘・ビール屋と比べるとまだまだリスクが高い状態になっています。
この例からわかることは、
- 投資は分散させたほうがリスクは小さい
- 分散効果は、違う値動きをする会社に投資する方が大きい
ということです。
大学1年生レベルの数学の知識を用いれば、数学的にも証明でき、これが現代ポートフォリオ理論の一つとしてファイナンスの世界で紹介されています。
数式の導出は、本旨から外れますので結果だけ載せておきましょう。
リスク(ポートフォリオの標準偏差) = √( 株式Aの投資比率の二乗×株式Aの分散 + 株式Bの投資比率の二乗×株式Bの分散 + 2×株式Aの投資比率×株式Bの投資比率×株式AとBのリターンの共分散)
下線部分に注目しましょう。共分散というのがどれだけ似たような動きをするかを示す数字です。
この数値がマイナスとなる(=逆の動きをする)ことで、下線部分がマイナスとなり全体のリスクが下がることがわかると思います。
数式のロジックは例で説明した通りですので、数式を学ぶ必要はあまりないと思いますが、導出が気になるかたには下記の本をお勧めしておきます。
なぜ著名な投資家は、分散投資を支持しないのか。
投資機会は限られている
まず1点目は、投資機会には限りがあるという点です。
ファイナンスの理論では、同じくらい儲けられそうな株が無数に存在することを仮定しています。
一方で現実世界ではどうでしょう。
忙しいサラリーマンであれば投資先を探す時間も限られており、同じくらい魅力的な投資をいくつも見つけることはなかなか難しいでしょう。
実際のところ、見つけた投資候補先の中では明確に、優劣があることのほうが多いはずです。
そうであれば、リスクは多少高くても期待リターンの高い方に投資しようという結論になることも多くなります。
セクター投資、インデックス投資の出現
近年機関投資家を中心に、セクター(特定産業)全体に投資することが増えています。
また日銀はETF(上場投資信託)で日本株を平均的に購入するということをやっています。
この結果、どの銘柄も似たような動きをすることがかなり増えています。
分散投資は、値動きが異なる株に投資してこそ効果を発揮する投資法なので、似たような動きをされるとあまり効果が出なくなるんですね。
これも近年分散投資の効果が薄くなっているといわれるゆえんでしょう。
投資先は10銘柄程度に絞ろう
株式投資は投資をする際のリサーチも大切ですが、投資後に自分の投資シナリオに外れていないかモニタリングすることも同じくらい重要です。
そのモニタリングが忙しくてもできる銘柄数に絞る必要があります。
最初の例でもわかりますが、かなり値動きの異なる銘柄を選ぶのであれば2銘柄でも分散効果が得られることもあります。
ただやみくもに銘柄数を増やせばリスクが下がるわけではないので、現実的には個人投資家は多くとも10銘柄程度に絞ることが現実的でしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回はポートフォリオ理論の入門編を取り扱ってみました。
結論は、値動きの異なる銘柄に投資することに尽きるかと思います。
じゃあどうやって値動きが異なる銘柄を探すのかというところが次のステップになるかと思いますのでこれは別記事で扱おうと思います。
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公認会計士。毎四半期、数百社くらいの決算資料を趣味で読みながら特徴的な決算について解説しています。「〇〇最終大幅赤字」といった表面的な報道があまり好きではなく、しっかり中身を語りたい。業界別に企業を比較しながら優良企業の強みにせまります。海外業務中心なので米国企業も強め。
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