現在価値と配当割引モデルの理論

はじめに

今回は、株価評価のために最初にならうだろう配当割引モデルを取り扱ってみようと思います。

次回の記事「コカ・コーラから学ぶ配当割引モデルと金利変動の動学」の準備編になります。

結論の数式は非常にシンプルな半面、「実務にどうせ使えない。。。」なんて言葉もよく聞きます。

実際に配当割引モデルが利用可能なケースは限られるとは思いますが、このモデルから実際に投資家やIR担当者が学べることはたくさんあります。

基本的なところからしっかり学んでいきましょう。

なお今回は準備編ですので、配当割引モデルの数式までは理解しているという方は、この記事を飛ばし、実践編をご参照ください。

コカ・コーラから学ぶ割引配当モデルと金利変動の動学

配当割引モデルってなんだ?

答えから入ります。

株価 = 配当D ÷(割引率r – 配当成長率g)

たった3つの変数で株価が予想できるという便利なツールです。

最も割引率を求めることが非常に難しいのですが、、。後ほど実際に計算してみます。

この理論の背景にある過程は非常にシンプルです。

投資家が株式を売らず、将来の配当のみが投資家が得られる利益と考えます。

ステップバイステップで上記の数式を算出してみましょう。

1年後に一度だけ配当がもらえるケース

基本が大切なので一年後に一回だけ配当がもらえるという超シンプルな仮定で見てみましょう。

1年後に105円配当して、解散する会社があるとしましょう。この会社をいくらで買うでしょうか。銀行にお金を預ければ金利が5%付くとしましょう。ここでは便宜上会社の業績がぶれることなく必ず1年後に105円を配当するという仮定です。

今いくらなら買うでしょうか?

今銀行に100円預ければ来年には金利が5円(100円×5%)つきますので、105円になります。つまり今の100円と来年もらえる105円は同じ価値になりますね。

頭のいい投資家であれば、100円以下でこの株式を買えるなら買うでしょう。

では、先ほどの計算を一般化しましょう。

現在のキャッシュアウト100(=株価P) ×(1+ 利率5%) = 将来の配当D 105円

株価P = 将来の配当D105円/(1+利率5%)=100です。

株価P = 配当D/(1+利子率r)という計算式になりました。

この将来はいるお金を現在の価値に置きなおすことを割引現在価値と呼び、利率に応じて割り引かれる大きさが変わるのでこの利率を割引率と呼びます。

配当が定額のモデル

さて次は一生配当が10円もらえる会社を想像しましょう。
このブログの読者のレベルであればすぐに答えがわかってしまうと思いますが、本当になにも知らない人であればずーとお金がもらえるなら価値は無限大になるんじゃない?と思ってしまいます。

でもこの株を1億円で買いたい?と聞かれれば仮に1億円あっても絶対ほしくないですよね?

その感覚を説明するのも割引現在価値です。
ちなみにこんな証券ないだろうと思ってしまいがちですが、永久債と呼ばれる満期のない債券がありこの債券は同じ評価方法になります。
過去にイギリスで発行され、コンソル債と呼ばれています。

割引率r を5%として100年後の配当10円の価値を見てみましょう。
現在の1円は1年後にrの利子がつくので(1+r)円になります。 2年後は元本が(1+r)円になりそれに対して利子rが付きますので(1+r)×(1+r)ですね。
100年後は、(1+r)^100(パソコン表記に合わせて何乗かの表記に^を使いますね。)ですね。
初期出資額 P × (1+r)^100 = 配当10円
初期出資額 P = 配当10円/(1+r)^100
これを計算すると0.076円です。100年後の10円はもうほとんど無価値なわけですね。

無価値なものを足し続けても無限大にはならないだろうというのは想像がつくでしょう。

一応数学的に説明しておきましょう。
初期出資額(=株価 P) は将来貰う配当の現在価値を同じ金額になるはずです。

式1 P = D/(1+r) + D/(1+r)^2 + D/(1+r)^3 + ・・・・+D/(1+r)^100 +D/(1+r)^101・・・・・D/(1+r)^∞

さてこの計算が非常にめんどくさい数式の両辺に(1+r)をかけてみましょう。

式2 (1+r) P = D + D/(1+r) + D/(1+r)^2 + D/(1+r)^3 + ・・・・+D/(1+r)^100 +D/(1+r)^101・・・・・D/(1+r)^(∞-1)

式2の両辺から式1の両辺を引いてみましょう。

左辺は(1+r)P – P = rP
右辺は、オレンジで書いた部分が全く同じなので全部消えていっちゃうんですね。

結局残るのはD – D/(1+r)^∞です。

さて赤字の部分ですが、先ほど100年後の配当10円は現在の0.7円くらいまで割り引かれるという話をしました。

じゃあそれよりはるか先はどうなるでしょうか?

はい、0になります。

一応500年後の10円を現在価値にしてみると、、、

0.000000000025円!

ほぼゼロですね。

残った数式を書くと割引率 r × 株価 P = 配当 Dとなりました。

株価P = 配当D / 割引率 r

と非常にシンプルな答えになりました。

さて永久に配当10円がもらえる会社の株価を求めましょう。

株価P = 配当10円 /割引率5% =200円ですね。

配当が定率成長する場合の割引現在価値

さて、最後に配当が定率成長するパターンを見てみましょう。

前のモデルでは一生配当が一定額というものでした。

債券ならまだしも株式会社でそんなことはありえないと学者さんたちは考えます。

インフレーションもあるし、技術革新もある。

じゃあ一定割合で成長するケースを考えてみようというわけですね。

では、実際の例を見てみましょう。

日本が目指しているインフレ率2%と合わせて配当も2%ずつ増える(成長率g = 2%)と仮定してみましょう。

それ以外の仮定は一つ前のモデルと同じです。

前回と同じような数式を使います。

現在の株価は将来の配当の現在価値でした。

式3 株価 P = D/(1+r) + D(1+g)/(1+r)^2 + D(1+g)^2/(1+r)^3・・・・D(1+g)^∞-1/(1+r)^∞

となります。前回との違いは分子に(1+g)が増えていますね。

今回も両辺に何かをかけるという作業をしますが、(1+g)が数式に増えています。

まず前回と同じ(1+r)を両辺にかけてみます。

式4 (1+r)P =D +D(1+g)/(1+r) + D(1+g)^2/(1+r)^2 + D(1+g)^3/(1+r)^3・・・・D(1+g)^∞-1/(1+r)^∞-1

次に(1+g)を式3にかけましょう。

式5 (1+g)P = D(1+g)/(1+r) + D(1+g)^2/(1+r)^2 + D(1+g)^3/(1+r)^3・・・・D(1+g)^∞/(1+r)^∞

さて、ここまでくるとわかりますね。式4から式5を引いてみましょう。

オレンジ色の部分がまたしても消えてしまいます。

左辺 (1+r)P – (1+g) P =rP -gP =(r-g)P

右辺  D – D(1+g)^∞/(1+r)^∞

基本的には配当成長率gよりも割引率rが大きくなるので、赤字部分はゼロになります。

よって最終的には(r-g)P = D

P = D / (r-g)

先ほどの配当が10円、配当成長率が2% 割引率が5%の例で行けば

株価 P = 配当10円 / (割引率 5% – 配当成長率 2%) = 333円となります。

割引率には何を使う?

今までは割引率=銀行の利率としていました。

これはどのような仮定かというと銀行が利息を払うのと同じくらい、将来配当が支払われない恐れも小さいし、配当額も絶対ぶれないということなんです。

リスクがあるなら、銀行に預けたほうがいいので、それ以上に割り引かないといけないわけですね。

つまり割引率は企業固有のリスクに見合った株主が期待するリターンを使うことになります。

これは株主資本コストと呼ばれます。

 

株主資本コストの計算方法は、一般的にCAPM理論といわれる理論が使われます。

実務で応用可能なシンプルな一次方程式のCAPM理論を見てみましょう。

株主資本コスト = リスクフリーレート + β × (マーケットの平均期待収益率 – リスクフリーレート)

リスクフリーレートとは、まったく倒産リスク等がない投資先があると仮定した場合の利率のことです。一般的には、国債が使われますね。

この数式の前提はリスクが高い投資ほど、投資家が期待する収益率は高くなるという当たり前の事実です。

それを反映するために、マーケットの収益に対して、リスク度合いであるβ値と呼ばれるものをかけて計算するわけですね。

β値の計算をここで書いてしまうとここまでの記事と同じくらいの計算量になってしまうので、ここではリスクの度合いを表し、この値が高ければリスク高だと覚えておきましょう。

まとめ

今回は、理論編だったこともあり、テキストを読むようで、退屈だったかもしれません。

背景にあるロジックがわかっていれば、より応用が利くようになるかと思い念のため今回の記事を用意しました。

次回の記事は面白くなりますので、その記事を読む前に、この記事の中で理解できない部分があればぜひご連絡をしてください。

また、記事が気に入ってくださった方は、ツイッターでも情報発信をしていますので、ぜひフォローしてください。

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です