ROIC(投下資本利益率)徹底解説 ROA,ROEとの違いから、企業が目指すべきROICまで

ROIC:Return on Invested Capitalの略で日本語では、投下資本利益率。

ROIC  =  税引後営業利益(NOPAT)÷投下資本(有利子負債+株主資本)×100%

企業は、銀行等からの借入であるデッドファイナンス(BSでいう有利子負債)、株主からの調達であるエクイティファイナンス(BSでは株主資本)により資金を調達します。

この調達した資金を元に効率的に利益を生めているかをはかるための指標です。

有名なROA(総資本利益率)やROE(株主資本利益率)と並ぶ資本効率性指標の一つです。

ROICは、ROAやROEに比べ企業価値との関連性が高いといわれています。

今回は、なぜROAやROEではなく、ROICが優れているのか、利用時にどのような点で注意すべきなのかを徹底解説していきます。

企業の資金の流れで理解するROIC

銀行や株主から集めたお金は、固定資産や棚卸資産等の事業用の資産に投資されます。

この際購入代金の一部は買掛金や未払金等の事業用負債となり現金の支払いが留保されます。

よってこの事業を作るためにネットで必要なお金は事業用資産 ー事業用負債となります。

仮に非事業資産(有価証券やゴルフ会員権等)がないとすると調達した資金をそのまま事業資産・負債にしますので、

事業用資産 – 事業用負債 = 投下資本(有利子負債+株主資本)

という等式が成り立ちます。

この事業用資産・負債から生み出される利益が、まさに企業の営業利益となります。

つまりROICはあくまで事業活動の良否を図るための指標であるため、営業外の損益項目が含まれていない営業利益が使用されます。

ただし、税金として支払うべきものは株主へ配分できないことからリターンとは言えません。

よって税引後の営業利益が利用されます。

簡便的には”営業利益 – 損益計算書上の法人税等の金額”が利用されているケースも多いですが、

あくまで事業活動の良否を考えるのであれば営業外の活動(例えば債券投資から得られる利息のリターン)にかかる税金は除くべきです。

営業外項目の損益が大きいようでしたら実効税率(現在の日本では31%程度が普通)を使う場合がよいでしょう。

減損損失は、営業利益に入れるべき?

さて、先ほど分子は営業利益という話をしましたが、これは実はデリケートな問題です。

減損損失とは、事業がうまくいかなくなったことによって、固定資産の簿価が将来回収できない見込みとなった場合に回収できない金額を損失計上する処理です。

米国基準やIFRSではそもそも営業外の項目は、限られており減損損失等の非経常的な損失も営業利益に含められます。

一方で日本基準は特別損失として計上しています。

どちらが正解なのでしょうか?

ここで注目すべきは、ROICはあくまで事業の良し悪しを図る資本効率性指標であるということ。

減損損失はまさに事業がうまくいかなかったことによる損失なんですね。

だから全く無視するということは望ましくありません。

一方で本来減損がなければ将来発生する予定であった損失を一時に計上しているため、全額入れるべきかといわれると難しいところです。

たとえば減損損失を加えて3期平均をとるといった方法で減損損失を平準化するのが正解です。

当期だけ見たいということであれば減損損失を平均的な固定資産の残存年数で割った金額を当期の利益に調整してもよいでしょう。

ROEでもなくROAでもなくROICが良い理由

さて、ROICと共によく議論される資本効率性指標であるROE、ROAの用語はまずは確認しましょう。

ROE(Return on Equity,株主資本利益率)= 当期純利益 ÷株主資本比率 × 100%
ROA  (Return on Asset, 総資本利益率) = 当期純利益÷総資産×100%

ROEは簡単に操作できる

ROEは、まさに株主のための利益率を図る手法です。

株主がいくら拠出して、それに対するリターンがいくらかということなので株主に配当可能な金額である当期純利益が利用されます。

簡単な例を見てみましょう。

ROE = 当期純利益200 ÷ 株主資本 800 ×100% = 25%となります。

ではここで銀行からお金を600借りてきて自己株買いを600したとしましょう。

お金を借りてきて自己株買いをしたという本来の事業活動に関連ない行為によってROEは100%と4倍にも改善しています。

このようにROEは資本調達コストにより簡単に操作されるという問題点があります。

また、一株当たり利益が増加するため株価は増加しそうに思えますが、その分株主のリスクが増大し、実際にはそれほど株価は上がりません。

これは内容が難しいため別記事で説明しますが、資本構成の変動によるROEの変化は
負債利子にかかる税金部分のみ株主価値に影響する
というかなり限定的な影響になっています。

ROAは、買い手との交渉力を反映できない。

さて、次はROAです

ROAは、ROEと比較するとかなり操作されにくい指標となっています。

しかしながらアップルのようなサプライヤーに対して強大な力を有する企業とそうでない企業との差が見えづらくなります。

以下はアップルの2018年9月期からのIRです。(単位は十億ドル)

ROA = 当期純利益 60 ÷総資産 366 × 100% = 16.4%

アップルは、サプライヤーとの力関係が強いため買掛金等の支払いをかなり遅らせることができます。

その結果事業用負債が多くなり、少ない資金調達で事業を回せており、買い手との交渉力がない会社と比べれば効率的に投下資本を運用できています。

しかしながら、ROAにはそれが全く反映されません。

極端ですが、仮にアップルと同じ構成資産をしている会社で、サプライヤーとの交渉力が弱く現金払いをしなければならない会社(すなわち事業負債がゼロ)を想定してみましょう。

総資産は、先ほどの例と同じですので、事業負債がない分投下資本が144余計に必要になります。

しかし、使っている資産自体は同じとなるためROAは、16.4%と変わりません。

サプライヤーとの交渉力の弱さで余計に現金が必要になったという欠点を指標は反映できないんですね。

両方の問題点を解決できるのがROIC

ROEの問題点:株主資本比率を変えることで簡単に操作可能
ROAの問題点:サプライヤーとの交渉力で決まる事業負債の金額が加味されない。

の両方を解決したものがROICです。

ROIC = 営業利益 ÷投下資本(有利子負債+株主資本)であるため株主資本比率を変えても分母を変えれませんし、

事業負債を除いた純粋な投下資本で計算できているので資本提供者側にとっての適切なリターンになっています。

ROICは、WACCを超えたら企業価値が上がる。

資本提供者側から要求されるコストは、投下資本が有利子負債と株主資本の両方で構成されることから加重平均資本コストとなります。

資本提供者側を満足させつつ、企業に利益を留保できれば株主価値は向上することから、

ROIC>WACCであれば企業価値を上げる経営ができているといえます。

詳しくは下記記事に記載しました。

PL思考の病魔  まだ投下資本を考えずに投資してるの?(売上・ROICと企業価値の関係)

ROIC経営を導入する際にはWACCを超えるROICが必要になる可能性がある

ここからが応用編です。

先ほどまでのお話はどの教科書にも出てくるものでROIC>WACCは、企業価値経営の基本ともいえる式です。

ただ、これを企業がそのまま使ってよいのかというと実は疑問が残ります。

もう一度基本の図に戻りましょう。

ここまでは、株主が出資した金額が純資産だという前提で話を進めてきました。

一方で現実世界はというと、株主は現在の株価水準に対してリターンを求めています。

自分が株をすることを考ればイメージしやすいかもしれません。

例えば資本金100円で始まった会社が成長した後状況純資産が300円になりました。

これを株価500円で買った場合の時を想像してください。

投資家は当然500円を支払っているため500円に対してのリターンを考えるはずです。

つまり投資家目線での現在の出資額は時価総額

時価総額 = PBR ×純資産(≒株主資本)

PBR2倍で想像すると

WACCを5%(負債コスト3%、株主資本コスト7%)と仮定しましょう。

企業は、ROIC5%を達成しました。

企業が配分可能なNOPAT(税引後営業利益)は、投下資本200×ROIC5% = 10となります。

会社は、100の負債に対して3%の利息を銀行に払わなければなりません。

株主に配分可能な利益は、10 – 3 =7となります。

株主にとってこの7は、投資額200に対してたったの3.5%でしかありません。

株主は7%のリターンを期待しているためこれでは株価は下がってしまいます。

企業は、取引実績からくる簿価ベースの投下資本でしか、ROICを考えることはできませんのでROICのそもそもの基準値を高める必要があります。

債権者と株主両方が満足するリターンは、

投下資本時価(=有利子負債 100 + 時価総額 200)×WACC5% = 15となります。

企業に必要なROIC = 15 / 投下資本 200 = 7.5%

当初はWACC5%以上を目指せばよいと思われましたが実際にはそれよりも高い7.5%を企業は目指さないといけないことがわかります。

一般化しましょう。

必要なリターン = 投下資本時価 × WACC = (有利子負債 + 純資産(≒株主資本)×PBR)×WACC
必要なROIC = 必要なリターン÷(有利子負債+株主資本(≒純資産))
= WACC + (PBR – 1) × 株主資本 ÷(有利子負債 + 株主資本)× WACC

PBRが1を超える場合には企業はWACCよりも高い数字を目指す必要があります。
数式がややこしくなってしまいましたが、投資家目線で見るならばそもそもROICを時価ベースで計算すれば簡単です。

修正ROIC = NOPAT(税引後営業利益)÷(有利子負債+時価総額)

これであれば単純にWACCと比較すればよいことになります。

投資家の期待が高すぎる場合には、企業はこの高い水準のROICをあきらめて、投資家に期待が高すぎる旨を説明するよりありませんが、

この修正ROICがWACCを超えていなければ株主価値は毀損してしまうことを忘れてはいけません。

業界別のROIC

さて、ここまでお読みいただければ、業界別にROICが大きく異なることは容易に想像がつくでしょう。

資本を必要としないAIの会社等はROICが当然高くなるでしょうし、資本が多額に必要な製造業はROICは低くなるでしょう。

参考までの目安ですが、業界別のROICの平均を以下で算出してみました。
※2018年末時点で利用可能な最新の有報を元に(営業利益ー法人税)÷(有利子負債+自己資本)で計算しています。
データはバフェット・コードより

ガラス・土石製品5.8%
ゴム製品8.8%
サービス業7.3%
その他製品5.3%
その他金融業2.4%
パルプ・紙2.2%
不動産業4.1%
保険業8.2%
倉庫・運輸関連業3.2%
化学8.3%
医薬品8.1%
卸売業3.2%
小売業6.5%
建設業8.7%
情報・通信業8.8%
機械7.7%
水産・農林業4.2%
海運業1.0%
石油・石炭製品7.3%
空運業8.5%
精密機器7.8%
繊維製品4.9%
証券、商品先物取引業2.4%
輸送用機器5.7%
金属製品5.4%
鉄鋼3.7%
鉱業1.3%
銀行業3.8%
陸運業5.6%
電気・ガス業3.2%
電気機器7.5%
非鉄金属6.0%
食料品7.2%

終わりに

今回はROICについて概括してみました。

ポイントは、

  1. ROICが資本効率性指標の中で最も企業価値との関連が高い
  2. 企業は、PBRが高い場合にはWACCよりも高いROICを目指す必要がある。

続編は少し先になると思いますが、企業のROIC経営適用の課題、投資意思決定方法について語ってみたいと思います。

記事が気にって下さった方は、ツイッターでも情報発信をしておりますのでぜひフォローをお願います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です