何から読むべきかがわかる! 会社が出すIR資料入門

はじめに

企業の決算書類と言えば、有価証券報告書や決算短信が有名ですが、

一般の人には、

「何から手をつけていいか、、、」

という方が多いのではないでしょうか。

今回は、企業のIR情報のそれぞれの特徴を示しながら、どのように見る資料を選べば良いのか説明していこうと思います。

決算資料を見る上での3つの視点

どの決算資料がどのような性質を持つのかを把握するための視点は3つあります。

  • 速報性
  • 情報量
  • 比較可能性

仮にあなたが企業のビジネスをある程度知っていて、最新の情報を知りたいだけであれば、速報性が高い決算短信を見るべきです。

一方であなたがその会社について何も知らなければ、いきなり無味乾燥な決算短信を見てもわかることは少ないでしょう。

その場合は情報量が多い統合レポートのようなものがベストになります。

下記の図が典型的な会社のIR資料をまとめたものです。以下1つずつ見ていきましょう。

※なお各種資料は、Google検索で 「企業名 + 投資家情報」または、「企業名+資料名」で検索すれば見つかります。

総合力No.1 統合レポート(アニュアルレポート)優先度 A

ここ数年で急速に重要性が増してきたIR資料です。

中長期的な企業価値向上のための

  • 価値創造プロセス(バリューチェーン)
  • 経営戦略
  • コーポレートガバナンス
  • 財務情報

を統合したレポートです。

「企業価値向上のため」という一つの軸で語られるため、情報のつながりがわかりやすく投資家だけでなく、就活生やその企業のことを知りたいビジネスマンにも役立つ情報が集まっています。

また、多くの場合過去10年程度の長期の財務情報が開示される点も有用です

ただし、法令で求められる開示書類でないため

  • 開示している企業は一部の大会社に限られる
  • 決算報告日から早い会社で3ヶ月、遅い会社だと8ヶ月程度後にリリースされ適時性がない
  • 企業によって力の入れ方、情報開示の種類に差がある

という欠点があります。

例としてセブンイレブンの統合レポートのリンクを掲載します。

https://www.7andi.com/ir/library/mr.html

大局をみる中期経営計画 優先度 A

こちらは、言葉の通り企業の向こう3カ年から5カ年の計画や戦略が語られている資料です。

コーポレートガバナンスコードと呼ばれる東証が発行している上場会社が守ることが推奨されるルールにて開示が推奨されているものの、強制されていないため統合レポートと同様に情報にばらつきがあるという欠点があります。

基本的に統合レポートでカバーされるべき内容ではありますが、統合レポートが比較的新しい開示資料であり、企業の戦略について十分に開示されていないケースや中期の財務数値目標が開示されていないケースがあるため合わせて読みたい資料です。

中長期の目標を確認することで会社のKPIを知ることもできます。

情報の有用性は非常に高いものの、中期計画の性格上数年に一度しかアップデートされないところが大きな欠点です。

例として、資生堂の中長期経営計画を貼っておきます。

https://www.shiseidogroup.jp/ir/strategy/mgt.html?rt_bt=recommend-ir-bana_002#content-3

 

IR資料の王道 決算説明資料 優先度 A

東証一部の中でも優良企業であれば、四半期に1度決算短信と同じタイミングで(または数日後に)決算説明のために利用される資料が開示されます。

この資料が1年に1度も作られていないような企業は株主を軽視している企業と言えます。

決算説明資料は、

  • プレゼン資料のため読みやすい
  • 経営者が重視する指標にフォーカスされる

という利点があります。

また、上記2資料と異なり四半期ごとに開示されるケースが多いため適時に情報が得られます。

一方で上記2資料と同様の欠点ですが、

  • 自主開示のため情報のばらつきが大きい
  • 都合の悪い情報は省かれる恐れがある

という欠点があります。

過去に開示されていたけど、開示されなくなった情報にも注目することが重要です。

通常は、年度の決算説明資料がもっとも情報が多いため、年度の決算資料を複数年みると良いでしょう。

例として、ニトリの決算説明資料を添付しておきます。

https://www.nitorihd.co.jp/ir/library/briefing.html

意外に重要な情報が転がっているファクトブック 優先度 C

近年決算説明資料と同じタイミングで開示されることのある資料です。

企業にとって重要なデータを集めた資料で、特に小売店等では日販や平均店舗面積等が開示されているケースもあります。

アップルなんかは過去に四半期ごとのiPhoneやiPod/iMac等の販売台数の開示をしていました。

https://www.apple.com/newsroom/pdfs/Q4FY16DataSummary.pdf

なお、アップルは、サービス会社へ移行するというメッセージか、台数情報が重要でなくなったとして開示を終了しています。

業績予想といえば決算短信 優先度B

決算短信は、証券取引所の上場規定に基づき四半期ごとに開示が要求される資料です。

歴史的には、金商法に基づく法令開示書類の開示が遅いことからよりタイムリーに情報開示が行われるようにと制度化された資料です。

東証の定める作成要領に基づき開示項目は定型化されているため、企業間で比較しやすいというメリットがあります。

そして決算短信の存在意義といっても良いくらい重要な情報として、

通期業績見込み(期末は、翌期業績予想)が開示されます

これだけのために決算短信を見に行くことも頻繁にあり、また開示翌日には株価に大きく影響を及ぼす項目でもあります。

そのほかの主な開示情報は、

  • 財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書)
  • セグメント情報
  • 業績に対するコメント

等があります。

 

マニア向けの有価証券報告書・四半期報告書 優先度 C

有報と略される有価証券報告書。

金融商品取引法で求められる法定開示資料で、監査法人のチェックも受けた公式の書類です。

ソフトバンクのような大企業であれば、総ページ数が300にも登る情報量があり、かつ開示項目は決まっているので企業間の比較がしやすいというメリットがあります。

https://www.softbank.jp/corp/ir/documents/security_reports/

四半期ごとに提出が求められる報告書が、四半期報告書、年度に求められる報告資料が有価証券報告書と呼ばれます。

それぞれ開示期限は、決算日から45日以内、3ヶ月以内とされています。

四半期報告書は、年度の報告書と比べると情報開示が限られており決算短信よりも遅い割りに情報が多いわけでもないので読む機会はほとんどないといっても良いでしょう。

受注残をみる際に使うことがあるかもしれません。

有価証券報告書は、期末から3ヶ月かけるとあってそれなりに情報豊富です。

特に見ておきたいポイントは、

  • 設備投資の状況
  • 事業等のリスク
  • 経営上重要な契約等
  • 研究開発活動
  • 企業買収に関する注記
  • 固定資産の減損に関する注記

などが挙げられます。

特に固定資産の減損等企業が情報開示に積極的でない場合には、決算説明資料で十分に説明がされない恐れがあるため、それを保管するために利用できるでしょう。

ただし、定型文が多く、多くの文章を経理部門等必ずしもビジネスに明るくない人が作るケースも多いため読みにくいというのが最大の欠点です。

ざっと流し読みをして、「他の資料で拾えてなかった情報がないか?」という目線で見るのがちょうどいいでしょう。

当資料は法定開示資料なので全ての上場会社で利用可能ですが、仮に企業HPで記載がない場合には、EDINETというサイトで閲覧可能です。

http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/

その他

基本的には、上述したものが企業が開示している主な開示資料です。

本当にIRに力を入れている企業であれば、事業部別の説明会資料があります。

また、会社は多くの場合CSRレポートという企業の社会貢献について語ったレポートが開示されていることもあります。

CSRレポートは、それほど企業理解につながりませんが、企業のブランドイメージが重要な場合には理解を含めるために読む必要があります。

イオンなんかは、地域に根ざしたイメージ戦略が重要なのでその典型例と言えるでしょう。
https://www.aeon.info/sustainability/report/

企業が開示している資料ではありませんが、アナリストレポートも重要な情報源です。

こちらは、上原さん(https://twitter.com/uehara_sato4)のブログで無料で読めるものがまとまっているためリンクを貼っておきます。

http://skyrocket777.com/free_analyst_report/

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ABOUTこの記事をかいた人

公認会計士。毎四半期、数百社くらいの決算資料を趣味で読みながら特徴的な決算について解説しています。「〇〇最終大幅赤字」といった表面的な報道があまり好きではなく、しっかり中身を語りたい。業界別に企業を比較しながら優良企業の強みにせまります。海外業務中心なので米国企業も強め。