はじめに
野村證券が過去に公表したROEとPBRのグラフが興味深かったので、今回最新データを踏まえたグラフのアップデートに加えそこから得られるインサイトをお話ししていきたいと思います。
着実に改善している日本企業の収益性
日本企業のコーポレートガバナンスの改善を提言したことで有名な「伊藤レポート」が公表してから早4年が経とうとしています。当時日本の平均ROE及びROEの中央値は、5%程度でした。
では現在の上場企業のROEを見てみましょう。
なお0%以下は省略されています。
現在なんと中央値は7.24%まで改善しています。
当レポートが提言していたROE8%はもはや珍しい会社ではなくなりました。上位約1600社がROE8%を達成しているんですね。
ちなみにこれに伴いPBRは、中央値で1.4倍とレポート当時の数値から30%程度も改善しています。
世界の市況がよかったこともありますが、コーポレートガバナンスコードの採用により
- 経営目標・指標の明確化
- 収益性重視の経営
- 無駄な非事業資産の縮小
を企業が着実に進めてきたからではないでしょうか。
政府の動き方も、あまりフォーカスされないものの、コーポレートガバナンスコードの内容を見る限り評価されていいものだと思います。
これはまた別の機会に取り上げたいと思います。
ROE5%以上でROEが上がるとPBRが上がる関係になる
早速見てみましょう。
ROEが10%上がればPBRが1.4上がるという関係になりました。
このグラフ自体にあまり意味はないでしょう。ROEが高ければ高いほどPBRが上がるという当たり前の結論を示しているにすぎないからです。
ではこれをROEの低いグループ、普通なグループ、高いグループに分けてみます。
この際KPMGが書いた「ROIC経営」
に出ている区分を使います。
ROE5%以下は、機関投資家が経営者に退陣を求めるレベルのROEとなるようでここが一つの目安になります。よってROE5%以下を低ROEグループとしています。また、伊藤レポートで示されたROE8%も機関投資家・個人投資家ともに目安にしている数字ですので、この基準も使いましょう。
ROE5%超え、8%以下を中ROEグループ、8%超えを高ROEグループとします。
結果はこのようになりました。
ROE5%以下の銘柄では、ROEの増加がPBRの増加につながっていません。
これはこの水準では機関投資家は見向きもせず、個人投資家にも注目を集めづらいことからROEの改善が新規の投資家を集めることに直結していないと想定されます。
一方でROE5%以上の会社であればROEが10%上がるとPBRが1から1.4上がる関係となっていることがわかります。
つまり中ROEグループと高ROEグループでは、ROEの改善が機関投資家・個人投資家からの新規投資を呼び込み株価が上がりやすいということがわかるわけです。
中ROEグループよりも高ROEグループのほうが若干上げ幅が大きくなっていますが、これは誤差と思ってもいいでしょう。
このグラフからわかることは、ROE5%以上の会社で今後ROEが改善しそうな会社を買えということです。
ROEが改善しそうな会社というところも一つもポイントです。
高ROEは既に株価に反映されていますので、単にROEが高い会社をランダムで買うだけでは、PBRが上がることも下がることもありません。
逆に次のようなことも言えます。
高ROEで衰退産業の会社は買うな!
高ROEの会社は、ROEの減少に伴い、機関投資家、個人投資家がどんどん逃げていってしまうのでROEの低下と共にPBRが低下し株価もどんどん下がってしまいます。いくらPERが割安な会社であってもそのような会社はリスクが高いと判断できるわけですね。
終わりに
いかがだったでしょうか。
ROEとPBRの関係だけを並べたグラフであっても、こうして見ると得られる考え方というものがあったのではないでしょうか。
ただし、今回紹介していませんが、統計的手法の正確性を表している決定係数と呼ばれる数値が低く、グラフ上の近似線の正確性はそれほど高くないので参考までに気に留める程度でいいかもしれません。
次回は伊藤レポートとコーポレートガバナンスについて書いていこうと思います。
参考文献
公認会計士。毎四半期、数百社くらいの決算資料を趣味で読みながら特徴的な決算について解説しています。「〇〇最終大幅赤字」といった表面的な報道があまり好きではなく、しっかり中身を語りたい。業界別に企業を比較しながら優良企業の強みにせまります。海外業務中心なので米国企業も強め。
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