「キャッシュフロー計算書は、お金の実際の動きに基づくので操作されにくい。」
「キャッシュフローを割り引いて企業価値が計算されるため利益よりもキャッシュフローのほうが企業価値を理解するのに役立つ」
すべて本当のことですが、実際のキャッシュフロー計算書を見てどうでしょう?
一見してみなさんの期待に応えてくれたでしょうか。
恐らく、「よくわからない、、、」と思われた方が多いはずです。
実は今のキャッシュフロー計算書は、作る人のために作りやすい形式で作られており読む側に少しテクニックがいる方法が使われています。
今回はそのテクニックを紐解きながら、キャッシュフロー計算書を攻略してきたいと思います。
Contents
キャッシュフロー計算書とはなにか?
この記事を読まれる方は既にご存知かもしれませんが、キャッシュフロー計算書とはそもそも何?というところから始めましょう。
これは、企業の1年間の成績をキャッシュ(現預金)の動きから説明する計算書です。
実際にアマゾンのキャッシュフロー計算書を例に実物を見てみましょう。
ざっと項目を眺めてください。

アマゾンの10Kより引用し筆者が翻訳しています。
3つのキャッシュフロー:営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローを理解しよう
まずはキャッシュフローの源泉が3つに分かれることを理解しましょう。

関連するバランスシートから覚えれば理解をしやすいです。
営業活動に関するキャッシュフロー:企業の主たる活動(製品を製造するための原材料の購入や製品販売の収入)に関するキャッシュフロー
投資活動に関するキャッシュフロー:企業の製品製造に間接的に寄与する固定資産への投資、金融商品への投資、事業買収に伴うキャッシュフロー
財務活動に伴うキャッシュフロー:資金の調達サイドに関するキャッシュフロー
の3つから構成されます。
特徴をしっかり押さえましょう。
営業活動に関するキャッシュフローは今のビジネスから得られているキャッシュフローですので、現在のビジネスの良し悪しがわかります。
投資活動に関するキャッシュフローは、将来の成長に対してどれだけお金を投入できているかを示す指標です。
財務活動に関するキャッシュフローは、調達に関するキャッシュフローなので運転資本がどうやって集められたか、増えたのか減ったのかを表す指標です。
この性質を理解した上で次のキャッシュフローパターン分析に入りましょう。
キャッシュフローパターンで企業の成長ステージを見極める
これは、いろいろなキャッシュフローの読み方の本や記事で紹介されますので、解説しますが思ったより重要ではありません。(こんな簡単なパターン分けで企業がわかるのなら苦労しません。)
パターンを覚えるのではなく、なぜそのパターンになれば、どういう会社だと想像できるのかのロジックを理解することが重要です。

説明しようと思えば説明はいくらでもできるのですが、
通常営業キャッシュフローが赤字の会社は本業が恐ろしくうまくいっていない会社ですし、
投資キャッシュフローが+の会社は、(多額の投資有価証券の償還がある場合を除き)投資機会がないような絶望的な会社です。
プラス・マイナスにとらわれず大小の問題だととらえましょう。
実務上投資対象になるのは、②~④、⑦の4つだけですので、こちらを重点的に表を見てみてください。
考えるポイントは、前のセクションですでに説明しているのですが重要なのでもう一度振り返りましょう。
営業キャッシュフロー:現在の事業が好調かどうか
投資キャッシュフロー:将来の成長余力があるか
財務キャッシュフロー:資金調達・返済の有無
財務キャッシュフローだけ見方にテクニックが必要です。
財務キャッシュフローがプラスであれば借入を増やしていると取れますが、なぜ増やしているかによって意味合いが変わってくるためです。
たとえば投資キャッシュフローが大幅なキャッシュアウトであるため借入をしている場合は成長企業が成長を加速させるための借入なのでよい借入ととらえられます。
一方で営業キャッシュフローが多額のマイナスでそれを財務キャッシュフローで補っているような会社は、借り入れでなんとか企業が存続できているといったような危ない会社になってしまうので悪い借入になります。
お金がどこからきて、どこへ流れているのかを理解するのがきわめて重要です。
流れを意識して読みましょう。
Amazonは、優良成長企業
さて、キャッシュフローパターンの見方を覚えたところで早速Amazonで分析してみましょう。
Amazonのキャッシュフローを再掲します。

キャッシュフローパターンは前述の表に当てはめれば③の優良成長企業になります。
お金の流れに着目すると営業活動から184億ドル(約2兆円)という膨大なキャッシュを稼ぎながらも、借入を増やしながら、企業買収や設備投資にお金を使い将来の成長を目指していることがわかりますね。
借入を増やしながら、どんどん規模を拡大させているのでまだまだ成長余地が高いことはうかがえます。
ただし、有価証券の取得による支出が大きいのは少し気になります。
Annual Reportを見ると投資先は他社の社債なのですが、お金を借りながら資金効率の悪い運用をする必要があるのかは疑問です。
将来の買収に備えてお金をある程度会社に残しておきたいのかもしれません。
営業キャッシュフローは、損益計算書をベースに作られている。
さて、ここからさらに細部に入ってキャッシュフローを攻略していきましょう。
まずは、本業からのキャッシュフローを示す営業キャッシュフローです。

まずスタート地点に注目しましょう。
純利益から始まっています。
私たちがキャッシュフローについて全く無知であれば、恐らく
「製品の販売から得られたキャッシュイン」
「従業員の給料支払いに伴うキャッシュアウト」
といったような個別具体的な項目を期待すると思います。
実際にこのような形式のキャッシュフロー(直接法)も存在はするのですが、現在日本企業も米国企業もほとんど採用しているケースはありません。
これは企業が作りにくいという事情があることに加え、財務諸表間のつながりが見えにくくなるというデメリットがあるためです。
実際に採用されているのは間接法と呼ばれる方法で、損益計算書の利益(当期純利益又は税引前当期純利益)から始めて、営業キャッシュフローの差となる部分だけを調整していきます。
純利益と営業キャッシュフローの3つの調整項目
当期純利益から営業キャッシュフローを計算しようと考えると主に3つの調整項目があります。
- 非資金費用
- 非営業損益
- 営業資産の増減
1.非資金取引
これは、損益計算書上費用にはなるけれど、キャッシュアウトを伴なわい項目又は収益にはなるけれどキャッシュインがない項目です。

もっとも代表的なのは、減価償却費です。
固定資産に投資する際は、投資時に投資キャッシュフローとして計上されますが、償却時にはキャッシュは動きません。
一方でスタート地点のPLでは、費用としてマイナスされていますので、キャッシュを伴わない費用は足し戻してあげなければいけません。
Amazonの例では株式報酬費用も同様です。
経営者や従業員に直接自社の株式を発行し、報酬として与えるためPL上費用計上されるのですが、自らの現金は全く使っていないためキャッシュの動きはありません。
よって同じように足し戻してあげないといけないわけです。
2.非営業項目
営業活動に関係するキャッシュフローですので、例えば有価証券の売却益等の営業外の項目については、営業活動から除いてあげないといけません。
その調整項目がこれですが、通常重要性がないためあまり意識する必要がありません。
3.営業資産・負債の増減
この項目が最初は最もとっつきにくいのですが、典型的な例を考えてみましょう。

売上計上時と売上債権回収時に分けて考えます。
売上計上時は、売上債権が増加するだけでキャッシュの変動はありません。一方で売上債権回収時は利益変動はないですが、売上債権が減った分だけ営業キャッシュがプラスになります。
これは見方を変えると、売上債権は、売ったけれど現金化出来ていない部分と捉えることができます。
売上債権が増加すれば利益にが上がった割にお金が入ってこない。
売上債権が減少すれば利益はなくてもお金が入ってくるということになります。
よって売上債権の増減額は、損益計算書⇒キャッシュフロー計算書の調整項目になるわけです。
在庫や仕入債務等の営業資産も同じように考えられ調整項目になります。
キャッシュフローの調整の方向にだけ注意しておきましょう。
営業資産は、将来現金を獲得する権利なので、増えると利益にはなるがキャッシュインにならない項目です。
よって
営業資産の増加=営業キャッシュのマイナス項目
営業資産の減少=営業キャッシュのプラス項目
となります。
一方で営業債務の増加は、例えば商品を仕入れて費用になったにもかかわらずキャッシュアウトが発生していない項目です。
よって
営業債務の増加=営業キャッシュのプラス項目
営業債務の減少=営業キャッシュのマイナス項目
となります。
慣れると当たり前なのですが、最初のうちは混乱するので、ロジックをしっかり考えておきましょう。
営業キャッシュフローは、減価償却費、営業キャッシュフローマージン、アクルーアルを見よう
では一歩踏み込んで営業キャッシュフローのどこに注目すべきかを確認してみましょう。
減価償却費
これはキャッシュフローの項目として重要というよりは、
減価償却の金額を知りたいときはキャッシュフローを見ればわかるということを覚えておいてほしいため入れました。
減価償却はEBITDAを計算するために必要な重要な項目です。
通常損益計算書では、売上原価や販管費に入っており、別掲されていないのでキャッシュフローで確認できることを覚えておきましょう。
営業キャッシュフローマージン
営業キャッシュフローマージン = 営業キャッシュフロー÷売上高です。
営業利益のキャッシュフロー版というところでしょうか。
営業資産の増減でぶれやすいので、営業利益率をモニタリングすることも有力な方法ですが、長期的なトレンドで営業キャッシュフローマージンが悪化傾向にあるのか改善傾向にあるのかを確認することでお金を稼ぐ力がどれだけあるのかがよくわかります。
アクルーアル
アクルーアルの定義は、税引後利益 ± 特別損益 - 営業キャッシュフロー
通常は、減価償却費分だけ営業キャッシュフローのほうが大きくなるためマイナスになることが普通であるという点は見過ごされがちなので注意しましょう。
この数字がプラスになる場合キャッシュにつながらない利益が多く計上されているということなので、
- 企業が不正をしている恐れ
- 会計上のテクニックだけで、企業価値に関連のない利益を上げている恐れ(例えば負ののれん等)
があるといえます。
アクルーアルがプラスになる場合、営業資産負債の増減に着目しましょう。

Amazonの場合は事業が拡大しているフェーズなので、在庫や売上債権、仕入債務がそれぞれ増加していることに違和感はありません。
結果、営業資産負債項目増減の合計ベースの数値もあまり多くないため利益の質に問題はなさそうです。
一方で例えば
- 事業が停滞しているのに、在庫や売上債権が増加するケース
- 仕入債務は、変わっていないのに在庫や売上債権が増加するケース
は問題があります。
滞留売上債権や滞留在庫が疑われたり、効率の悪い在庫管理や交渉力低下に伴う不利な売上債権の回収条件変更が考えられるためです。
アクルーアルを計算するだけでなく、なぜアクルーアルがプラス(又はマイナス)になるかを分析することが重要ですので気をつけましょう。
投資キャッシュフローは性質を分けて考えよう
続いて投資キャッシュフローです。
投資キャッシュフローを見るときに特に気を付けてほしいことは、
投資キャッシュフローの合計数値をベースに判断しないこと
投資キャッシュフローの中身をAmazonのキャッシュフローで見てみましょう。

中身を見ると確かに投資という内容ではあるのですが、その内訳は大きく
- 設備投資(無形資産への投資含む)
- 企業買収
- 有価証券の取得、(Amazonにはないですが)第三者への貸付
の3つに大きく分けれることがわかります。
このうち3番目については、多くの場合、余った資金の運用のために社債等に投資しているケースが多いです。(Amazonも2017年の増加は社債の投資増加による。)
ただ余剰資金を運用するのみであれば、将来の成長への投資とは言えませんから、設備投資、企業買収とは分けて考えなければなりません。
純粋な成長のための投資キャッシュフローは、設備投資(無形資産投資含む)+企業買収ということをしっかり覚えましょう。
設備投資額の推移を追おう
純粋に事業が拡大傾向にあるかどうかを分析するために注目したいのが本業のビジネスへの設備投資額。
以下の2つのポイントで注目したいところです。
- 設備投資 vs 減価償却費
- 設備投資対売上又は利益比率
一点目は、固定資産の減価以上に設備投資が出来ているかを見るために使います。
固定資産は毎期劣化していくので、企業が成長を志向していなくても更新投資が必要になります。
毎期必要な更新投資はざっくりですが、固定資産の価値の低下推定額である減価償却費になります。
よって、減価償却よりも大きい設備投資をしていれば拡大投資を実施している、していなければ更新投資に注力していると考えられます。

Amazonの場合であれば、意外にも減価償却と投資額はあまり変わらない水準になっていますね。
これは、設備の耐用年数をAmazonが短く見積もっているためのようですが、今回の記事のレベルを超えるため詳細は省略します。
二点目の設備投資を売上・利益の比率で見るという点は、どうしても絶対額で見ると設備投資が多いのか少ないのかがイメージがわきにくいためです。
単年度で見るというよりは過去からの推移を追うことで、成長投資を行う投資先があるかどうかを分析しましょう。
同業他社比較も余裕があればしたいところです。
財務キャッシュフローは、ファイナンスと株主還元に分けて考える
Amazonの財務キャッシュフローを見てみましょう。

Amazonは、成長企業なので配当や自社株買いをせずに資金の調達(ファイナンス)のみが財務キャッシュフローに記載されています。
一方でコカ・コーラのような会社は、毎年株主還元で多額の配当や自社株買いをやっているケースもあるためファイナンスを株主還元とファイナンス部分に分けて考えましょう。
株主還元部分は、営業CF(または利益)のうちどれぐらいが株主還元に回されているかを理解する程度で大丈夫です。
ファイナンス部分は、形式が借入れなのか、社債なのか、はたまたリースなのかの違いはあるにせよ、
ファイナンス項目のキャッシュフローがプラスであれば資金が足りなかったために調達した。
マイナスであれば資金が十分だったので、返済に充てたというにすぎません。
よってファイナンス部分は合計ベースで見れば十分です。
ファイナンス部分のキャッシュフローがプラスならば、そのお金がどこに使われたかに着目しましょう。
今回であれば、企業買収が約140億ドル分ありますので、その分借入をしたというストーリーが立ちそれほど問題のある動きではないでしょう。
一方で借入によって営業キャッシュのマイナスをカバーしているような場合には要注意となりますね。
終わりに
いかがだったでしょうか。
今回はキャッシュフロー計算書に関し、基礎的な内容から中級レベルまでの読み方を解説していきました。
企業の行動に結び付けながら理解していけば、そう難しいものではなかったのではないでしょうか。
重要ポイントだけまとめておきましょう。
- お金がどこから入ってきて、どこに使われたのかを理解しよう
- 営業キャッシュと会計上の利益の差は問題になることが大きいのでなぜ発生したか分析しよう
- 投資キャッシュフローは、成長のための設備投資や企業買収と余剰資金の運用を分けて考えよう。
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