損益計算書(P/L)の読み方超入門 初心者から中級者へ一気に駆けあがる方法

「損益計算書ってどう読むの?」「読んでみたけど全然情報なくて何もわからなくない?」

こんな方が多いのではないのでしょうか。

現在の損益計算書は、非常にシンプルになりすぎていて会社のことを知ろうとするとちょっとしたテクニックが必要です。

今回はそもそも損益計算書ってどんな項目があるの?というところから、人とは一歩差別化する方法までを一気に学べるように構成しています。

これをマスターすれば中級レベルまで駆け上がることができるでしょう。

企業の業績がわかる損益計算書

損益計算書はシンプルなのでまずは実例を見てみましょう。

今回は任天堂の財務諸表を使います。

※わかりやすくするために一部内訳項目を省いています。

製品競争力を見るための粗利率(売上総利益÷売上高)

トップラインである売上高は、みなさんのイメージ通りのものです。

あえて定義を話すのであれば、企業が製品の販売又はサービスの提供を行った結果もらえることになったお金の額のことです。

難しく考えず、製品を100円で売れば売上100円というイメージで全く問題ありません。

売上原価は、売上げた製品またはサービスを作る又は行うためにかかった費用です。

任天堂であれば、Switchを作るために使ったGPUやバッテリー等のコストや人件費がここに含まれます。

この売上から売上原価を差し引いたものを売上総利益と呼びます。

単純にかかったコストよりもいくら高く売れたかという数字なので製品やサービスの競争力を表す指標として使用されます。

金額ベースでは、違う規模の企業を比較しづらいので売上総利益を売上高で割った売上総利益率(粗利率とも呼ばれます。)が良く利用されます。

たとえば世界的なブランドであるアップルは売上総利益率39%、コカ・コーラは62.6%を誇ります。

一方で競争力の低い台湾スマートフォンメーカのHTCであれば粗利率2.2%ですし、日本の飲料水トップブランドの伊藤園も47.3%にとどまります。

製品の競争力が良く反映されていることがわかりますね。

操作されやすい販売費および一般管理費

さて、続いて販売費および一般管理費です。

名前からイメージが付きやすいですが、営業の方の人件費や製品販売のための広告宣伝費、経理や総務等の本社費用がこの区分に入ります。

略して販管費と呼ばれることもあります。

特にユニクロのような店舗販売に力を入れる必要のある会社やRIZAPのようなブランドイメージで勝負していくような企業ではこの項目が重要になります。

有価証券報告書を見れば連結財務諸表の次に続く注記という項目で明細を見ることができます。

任天堂で見てみましょう。

こちらも売上との比率で見ることがあります。

たとえばユニクロの決算説明資料を見れば経費率という項目で削減目標が挙げられていますね。

販管費は一般的に操作しやすい項目が多いということが特徴です。

特に広告宣伝費や研究開発費は、不景気になれば真っ先に削減される項目です。

販管費率の減少により営業利益率が改善したというようなケースでは、内容を精査して長期的な企業価値を損なうような研究開発費の減少等ないかを監視する必要があります。

今回の任天堂のケースでは、Switchの販売により売上が2倍以上になった一方で広告宣伝費の増加は49%の増加にとどまっており、過大な広告費の計上はありません。

また、研究開発費を削っているような状況も見られませんのでそれほど問題となる項目はないでしょう。

事業全体の良し悪しを見る営業利益率

営業利益は、先ほどの売上総利益(売上高 -売上原価)から販売費および一般管理費を差し引いたものです。

販売や本社機能の費用も含めた全体の利益であるため本業がうまくいっているかを表す指標になります。

先ほど販管費がユニクロやRIZAPで重要だという話もしましたが、このような販売活動も重要な会社は、営業利益が企業の競争力を最も表します。

こちらも利益額を見てしまうと企業の規模に影響を受けるので利益率(営業利益÷売上高)で分析します。

ユニクロをブランドとしてもつファーストリテーリングの営業利益率は、11.1%。一方で格安洋服店のしまむらは、6.9%となっており、現在の企業競争力を表していることがわかります。

さて、PLに戻りましょう

基本的に重要でない営業外収益・営業外費用

営業外費用はそれほど重要ではありません。

主な項目は、余剰資金を運用した結果得られる配当金や利息等本業に関係ない収益や、借り入れに対する利息費用がこの項目に計上されます。

重要になりうるのは、為替差損益。これは外貨建ての売上債権や仕入債務、貸付・借入等が為替変動によって金額が増加したことによる利益・損失です。

海外への輸出等が大きくなる会社は注意したい項目です。

基準差に注意したい特別利益、特別損失

まず、日本の会計基準以外の会計基準(IFRS、米国会計基準)は、この項目は基本的にありません。

これらの会計基準は、過去特別損益を悪用する企業が多かったため、特別損益を廃止し、基本的にはすべての取引が営業に関連するものというように整理されました。

なぜ、IFRSや米国基準の話をするかというと日本でもトップクラスに大きい企業はこれらの基準を使っていることが多いからです。

時価総額トップ10の会社から例を挙げると

米国基準:トヨタ、三菱UFJ、ソニー
IFRS:ドコモ、ソフトバンク、NTT、KDDI

実に10社中7社(2018年11月26日現在)が日本の会計基準以外の会計基準を採用されているのですね。

会社の規模が小さくなれば日本基準を採用している会社が増えます。

日本基準の会社は、特別利益、特別損失は注意深く見ましょう。

これらに分類される項目は、臨時的で金額が多額となる項目

特別利益:負ののれん発生益、固定資産売却益
特別損失:減損損失、多額の貸倒損失、災害による損失、構造改革費用

が挙げられます。

負ののれんについては、企業買収で個々の資産・負債を時価よりも安く買った場合に発生する利益で以下に詳しく説明しています。

まだ会計基準差を無視して投資しているの?あなたがPERで失敗する理由【のれん償却・減損損失】

減損損失は、固定資産の会計上の金額が将来キャッシュフローで回収できない見込みとなったとき回収できない部分を損失計上する処理です。

必ずしも特別かといわれると毎期発生しているものもありますので、そのような項目は営業利益に修正していく必要があります。

特に減損損失なんかは将来発生するはずだった営業損失を先取りしている損失なので営業に関連します。

将来数期にわたって発生するはずだった損失が一度に計上されてしまうため、数期平均をとるなどしてならす必要はありますが、営業利益の調整としてとらえたいところです。

前述しましたが、米国基準やIFRSを採用されている会社は、元々これらは営業費用(売上原価又は販管費)に含まれています。

損益計算書を読むコツ

まず損益計算書に限らず財務諸表全般に言えることですが、財務諸表の数字は過去のものであるということに留意しましょう。

よって将来を予測するような情報は、それほど多く詰まっていないというのが正直な感想です。

一方で、過去の事実に基づいて出た結果ですので、

  • 企業のビジネスにどのようなリスクがあるか
  • どのような環境変化が企業の業績に影響を与えるのか

はよくとらえられます。

これらをとらえることで今後どのような数字をモニタリングすべきかを決められるのが財務諸表を読むことの意味です。

では具体的にどのようにこの特徴を捉えていくか。

これは以前Twitterでつぶやきました。

 

これに基づいてうまく損益計算書を読むコツを覚えましょう。

過去10期分の財務情報を入手し、売上・粗利率・営業利益の推移・同業他社比較

過去10期分の財務諸表を見る意味は、

  1. 企業の長期的なトレンドはどうなっているか
  2. 不況期にどのような財務諸表の動きをするか
  3. どのような経済環境が財務情報に影響を与えるか

を知るためです。

早速任天堂でやってみましょう。

2期でみれば、2018年3月期はすごく好調に見えましたが、歴史的に見れば任天堂はかなり業績に苦しんでいたことがわかります。

明らかに業績の変動が激しいため当期の業績ののみでPER、EV/EBITDA倍率等を用いた割安判定が危険であることがわかります。

直近では、粗利率は、38.2%、営業利益率は16.8%となっています。

ソニーのゲーム部門は、直近の営業利益率が4.4%ですので、ソニーよりも競争力が高いと思いたいところです。

しかし、これだけ業績に幅があるのは、直近で新型ゲーム機Switchを販売した影響だと考えるとSony側もPS4を発売した期と比較しなくてはフェアではありません。

ソニーのPS4発売の時期である2013年のゲーム部門利益率を見ると-数%~⁺3.4%程度ですので少なくとも製造原価の見積もりを含めた経営のうまさでは任天堂が勝っているといえそうです。

ここから特徴的な期のみピックアップしながら業績に大きな変動を与えるような要因を分析していきます。

特徴ある期から学ぶ原価要因分析

特に利益率が落ちたところから分析することが、特徴的な要因を探すうえでポイントなので利益率の推移も見てみましょう。

一番利益率が落ちたのは2012年3月期です。

決算説明資料が任天堂は薄いため決算短信から情報を拾いに行きます。

これらの状況に加え、「ニンテンドー3DS」本体や海外における「Wii」本体の値下げとこれらによる流通在庫の補償や、期中において為替相場が大きく円高に推移した影響等により、売上高は6,476億円(うち、海外売上高4,994億円、海外売上高比率77.1%)となり、営業利益は373億円の損失となりました。また、為替差損が277億円発生した結果、経常損失は608億円、当期純損失は432億円となりました。

また、株主様向け報告書では以下のように上げています。

「 ニンテンドー3DS」においては、当期大幅な値下げをした 結 果 、ハ ードウェアだ けでの 採 算 性 は 逆ざ やとなっていましたが、次期半ばまでには赤字解消を見込んでいます。

Wiiは、2006年発売で、3DS は、2011年2月発売ですが、新しいゲーム機を定期的に発表できなければ値下げにより利益率が下がっていくビジネスであることがわかります。

ちなみに黒字化した2015年3月期には、New Nintend 3DSが発売されています。

のちほど説明しますが、海外売上比率が非常に高いため為替リスクも重要な要因です。

残念ながら任天堂は原価に関する情報は一切公表されていませんでした。

新型ゲーム機発売の期に確実に高い利益を上げていることから原価管理にそれほど問題はなさそうですので販売面をしっかりウォッチしていくしかなさそうです。

急激な業績変動には当然ソフトの影響もあります。

特徴的な2009年、2012年と直近の2018年で比較してみましょう。単位は万本です。

ここから読み取れることは2つあります。

  • 2009年ごろに力を入れていた一般の大人をゲーム業界取り込む動きは失敗に終わった。
  • 上位ソフトのブランドはポケモン、マリオ、ゼルダ等変わり映えがしない。

今後はゲームを売るというよりはポケモン・マリオ等のブランドを売るという考え方にシフトしていくのだろうと感じます。

力の入れどころが間違っていないかがわかる販管費分析

さて、販管費については、既に前述してしまいましたが、もう一度見てみましょう。

先ほど企業のビジネスがブランドビジネスに代わってきているというお話をしましたが、このことから広告宣伝費にお金を使うことは間違っていない戦略になります。

もちろん普段のCM等から広告の方法が間違っていないかはモニタリングする必要がありそうですが、

売上の伸びを超えない広告宣伝費の増加であれば財務的には気にする必要のない項目といえます。

研究開発費についても利益率を保つため新しいゲーム機を定期的にリリースする必要があることから重要です。

売上の伸びはSwitch発売による一時的なものなので、増加率が小さいのもやむ負えないところと理解できます。

そのほかは金額的に重要性はないでしょう。

海外比率で学ぶ為替リスク

多くの場合決算短信にも記載がありますが、有価証券報告書には地域別の売上情報があります。

これを見ればどこの国の為替リスクを負うのかがよくわかります。

一般的なイメージでは韓国や中国が熱狂的なゲーマーが多そうですが、セグメントを見る限り圧倒的に米国と欧州が多く2地域で6割超の売上を占めています。

つまり円高・ドル、ユーロ安になれば売上高は大きく影響を受けることになります。

少しマニアックですがもう一つ地域別の情報を見る方法があります。

それは有価証券報告書の設備の状況という箇所です。

ここを見れば重要な拠点がどこの地域にあるかがわかるのですが、任天堂の場合、海外は販売拠点しかありません。

従業員人数こそ連結5500名のうちかなりの人数を占めますが、販管費内の人件費比率は多くなかったので費用面はUSD、EUR等の為替影響を受けないということが想像できます。

つまり売上は為替影響を受けるのに原価側は受けないということは利益率がかなり為替の影響で変動するということです。

ただし、生産は鴻海に委託していそうなので、もしかしたらドル建てで鴻海から仕入れている可能性もあります。

歴史的に為替差損益が損益計算書に多額に計上されていることから為替影響は大きいと思っておいたほうがよいでしょう。

株主価値を向上させる生産ができているかがわかるROIC

記事の都合上順番を前後させてしまいましたが、ツイッターで3番目に挙げたROIC分析です。

ROICについては、過去にいくつか記事を書いていますが、事業に投下した資本を効率的に運用できているかを図る指標です。

ROIC(投下資本利益率)徹底解説 ROA,ROEとの違いから、企業が目指すべきROICまで

債権者、株主から調達した資本には、WACC(加重平均資本コスト)がかかるため最低限WACCを超えるROICを出すことが必要ということを過去の記事で学びました。

ROICはバフェット・コードを見れば簡単にわかりますが、税引後営業利益(NOPAT)÷投下資本(有利子負債+株主資本)です。

バフェット・コードから引用すると直近で8.7%でした。

WACCの計算方法についても別記事で紹介していますので、この記事では省略します。

株主資本コストが10%近くありそうで、WACCは、8%程度になりそうだという印象です。

株主資本コストの計算を徹底解説

かろうじでWACCを上回るROICを出せていますが、PBRが3.4倍であることを加味すると投資家の期待は超えれていないのではないかと思います。

今回は株価が割安かどうか判断する目的の記事ではないですが、これだけ業績変動が激しいにもかかわらずPERも23.7倍と高いので投資対象としてはなかなか厳しいというのが個人的な感想です。

終わりに

いかがだったでしょうか。

今回は任天堂の財務諸表を通して損益計算書の読み方を解説してみました。

情報が少ない中での分析でしたが、

  • 業績に幅があるので好況期の今だけを見て割安度を判断しない
  • 為替リスクが高いので、為替変動に留意
  • ブランドビジネスになっているので、広告宣伝の仕方に留意
  • 新ゲーム機が出せなければ値下げで利益率が赤字になりうる

等々考えなければいけないリスクが多く上がってきたかと思います。

財務分析は、損益計算書に限らず目的ありきでむやみに時間を使ってしまいますので、財務分析でできることをこの記事で把握して何がしたいかを明確にしながら読んでもらえると効率的かなと思います。

記事が気に入ってくださった方はツイッターでも情報発信をしていますのでぜひフォローをお願いします。

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