貸借対照表の読み方超入門 初心者から中級者へ一気に駆けあがる方法

はじめに

会計講義第4回は、貸借対照表の読み方を詳しく見ていきます。

この記事単体でも読めるように構成していますが、前回の記事が気になる方は合わせてご覧ください。

会計講義第1回 公認会計士が教える! 最速で会計・簿記を勉強するための基本
会計講義第2回 もう迷うわない借方・貸方! 財務諸表間のつながりを意識する
会計講義第3回 財務諸表を作りながら会計の基礎を学ぼう

貸借対照表とはなにか?

第1回講義で触れていますが、

貸借対照表は、企業が持っている資産と負債,その差額である純資産を開示することで企業の財政状態を説明する資料です。

ここで資産・負債とはざっくりいえば

資産:将来現金に変換できる又は現金を生むもの
負債:将来現金を払わなければいけない義務

ということで、差額である純資産は、負債を払った後に株主へ配分できる金額となります。

※厳密にいえば、株主に配分できない部分もあるのですが、一旦はこう考えて問題ないです。

別のいいかたをすれば、右側の負債・純資産はお金の調達元を表し、資産側は調達したお金をどのように利用したかを示す運用サイドを表すともいわれます。

実例を見ながら、より細かく貸借対照表について理解していきましょう。

今回は時価総額ランキング上位会社のうち比較的ビジネスがシンプルなキーエンスを取り上げてみます。

ざっと見た感じ前回のお話よりかなり複雑に見えるかと思います。

まず、上からどのように並べているかというとお金に変わりやすい順に並べています。

これを流動性配列法と呼びます。

流動資産

現預金はお金そのものであるため最初にきますし、販売代金の未回収残である売掛金や売却すればすぐにお金に代わる有価証券は、お金に変わりやすいので上のほうに配置されます。

その後販売という手間を通して現金になる在庫が続きます。

途中流動資産計や流動負債計といった合計科目がありますが、この流動という意味は通常1年以内に現金化されるものが分類されます。

ただし、この1年以内かどうかだけを基準にしてしまうと、ある企業では在庫が流動資産で、ある企業では流動・固定に分かれるというややこしいことが起きてしまうので、

購買→製造→販売→回収といった通常の企業における営業活動中の資産はすべて流動資産とすることにしています。

これを正常営業循環基準と呼びます。

典型的な流動資産の言葉の意味を説明しておきましょう。

現金及び預金:言葉の通り企業が保有する現金残高と預金残高の合計です。
受取手形および売掛金:企業が商品を販売した代金のうち未回収の金額(通常販売から回収まで1~4か月かかります。)
有価証券:株式、債券等財産的価値のある証券のうち1年内に回収が予定されるもの。
棚卸資産:企業が事業活動として販売目的に保有する資産又はその資産を製造するための材料
貸倒引当金:売掛金等の債権のうち将来得意先の倒産等で回収できないと見込まれる金額(資産のマイナス項目)

固定資産

固定資産は流動資産に当たらない資産です。

すなわち購買→製造→販売→回収の通常営業循環の中にない活動に関する資産でかつ1年内に回収できないものです。

具体例を見ていきましょう。

有形固定資産:製造に使うための機械設備、建物や土地等の形のあるもの。
無形固定資産:ソフトウェア、ライセンス等の形はないけれど、企業のオペレーションに寄与する資産
投資その他資産:1年以内に現金化できない又はする予定のない株等の有価証券やゴルフ会員権、保証金等

流動負債

基本的には区分の仕方は流動資産・固定資産と変わりません。

通常営業循環の中にある負債もしくは1年内に支払い期限がくる負債であれば流動負債に分類されます。

典型的な科目は、

支払手形および買掛金:企業が棚卸資産を購入したことによって発生した債務のうち未払の部分
未払金:企業が棚卸資産以外を購入したことによって発生した債務のうち未払の部分
未払法人税:当期を含む過去の損益に関連して発生した法人税等のうち未払の部分
賞与引当金:当期の従業員の労働に対応して支払われる賞与のうち将来支払いが予測される金額
短期借入金:銀行その他第3者機関からの借入れのうち借入時から満期が一年以内に到来する借入金
1年内返済長期借入金:銀行その他第三者機関からの借入れのうち借入時から満期までの期間が1年超かつ貸借対照表日から返済までがが一年以内に到来する部分

特に注目すべきポイントは後述しますので、なんとなくこんな科目があるとイメージしてもらえれば大丈夫です。

固定負債

流動負債以外の負債ですが、こちらも典型例を覚えましょう。

退職給付引当金(又は退職給付に係る負債):将来支払われる退職金のうち現在の労働の対価に関連する部分の未払額
資産除去債務:購入した固定資産を将来廃棄する際に係る負債(原状回復義務履行に係る費用等)
長期借入金:銀行等の第三者機関からの借入で満期が1年超となる部分

純資産

純資産は、項目が多い割に投資家にとって重要なところはあまり多くありません。

強いてあげるなら自己株式:企業が過去に購入した自社の株式の合計額を押さえておきましょう。

その他気になる方のために用語だけ念のためまとめておきます。

資本金:投資家が出資し、資本金として定めた額(出資した金額のうち最低半分は資本金にする必要がある。)
資本剰余金:投資家が出資し、資本金としなかった部分である資本剰余金およびそのほか実質的な株主との取引から生まれた純資産の変動
利益剰余金:過去に発生した利益のうち株主に配分していない部分
その他の包括利益累計額:ややこしいので現状知る必要はありません。別記事で紹介しますが純利益にはならないけど株主との取引以外で純資産が増加した金額です。

貸借対照表は比率でざっくり理解する。

さてここまで事細かに1つ1つ項目を見てみたが結局のところ何もわからなかったのではないでしょうか。

貸借対照表は実は絶対額で見ることにあまり意味がありません。

絶対額では、いくらがあるべきだという比較対象がないためです。

また、細かい金額まで追っても結局経営に大きな影響はありません。

重要性がないものを省きながら大局を見ることが財務諸表分析の基礎といえるでしょう。

(単位:10億円)

図にするとかなりわかりやすいですが、キーエンスの場合ほとんど重要なBS項目はなく、余らせたお金を資金運用に回していることがわかります。

では、重要な指標を紹介していきましょう。

ネットキャッシュ倍率

案外見過ごされがちなのがネットキャッシュポジション。

ネットキャッシュポジション = 現預金+有価証券+投資有価証券 – 有利子負債(短期借入・長期借入等)
ネットキャッシュ倍率 = ネットキャッシュ倍率/時価総額

これは、今の株価のうち何割が余剰資金から生まれているかを図る指標です。

利益やキャッシュフローは、これらの資産以外から生まれるのが通常なのでPER等の経営指標はこれら非事業用資産の影響を除いて考えてあげる必要があります。

今回のキーエンスは極端な例ですが、ネットキャッシュポジションが、約1兆3200億円

時価総額が7.42兆円ですので、ネットキャッシュポジションは、17.8%

残りの6.1兆円が事業からくる価値ということになります。

安全性を図る流動比率・株主資本比率

これは急成長企業や業績回復を狙うような資産状態が悪化した企業の場合のみ必要な分析です。

急に倒産リスクが高まるといったようなことがないことを確かめるため以下の比率をチェックします。

流動比率 = 流動資産/流動負債
株主資本比率 = 株主資本(≒純資産)/総資本(=総資産)

流動比率は、1年内に回収できる資産と1年内に支払う負債を比較するため短期の安全性を図ります。

通常流動資産に資金化できない滞留棚卸資産等が含まれるため、200%程度あることが望ましいとされます。

キーエンスは計算するまでもなく、流動資産は流動負債を大きく上回っているため問題ないでしょう。(1100%を超えています。)

仮に100%を割る場合には、事業の特性に応じて業績の悪化で債務不履行にならないかを評価する必要があります。

株主資本比率は、総資本のうち何%を返済不要な資金である株主資本から調達しているかを示す指標です。

企業のキャッシュフローの安定性によって変動する必要があるもので、例えば市況に業績が大きく影響を受ける建機等の業界であれば自己資本比率は70%超等の高い比率が望ましいです。

一方で別記事で書いたコメダ珈琲のような非常に業績が安定する業態であれば自己資本比率30%程度であってもそれほど不安はありません。

理論株価は現在の1.6倍!? 隠れ優良企業コメダコーヒーの企業分析と株価分析

企業の経営管理状態を見る棚卸資産回転率・固定資産回転率

いきなり指標の定義から入りましょう

棚卸資産回転率 = 売上原価÷棚卸資産
固定資産回転率 =売上高÷固定資産

棚卸資産回転率は1年間で棚卸資産が何回入れ替わっているかを表す指標です。

固定資産回転率は、固定資産に対して何倍の売上を生んだかを図り固定資産の有効活用ができているかを図る指標です。

一般的にはこれらの指標を同業と比較して終わりとするケースが多いですが、これは少しもったいない。

まず完璧な同業他社など存在しないために、同業他社比較しても有益な情報が得られないケースが多いのです。

たとえば、自動車業界で固定資産回転率を利用するとしましょう。

ある企業では最終の組み立てだけを請け負い、ある企業ではエンジン等の主要なパーツの製造にも関与しているとしましょう。

こうなるとエンジン・基幹パーツを保有する会社は固定資産が多くなりますが、売上自体はともに最終製品が車であるためにそれほど変わりません。

結果多くの部品を内製化している企業ほど固定資産回転率が悪いといった結果が出ることもあります。

おススメの分析方法は、

  • 経営戦略との整合性を確認すること
  • 過去からの推移を見ること

です。

たとえばキーエンスであればファブレス工場で、生産をサプライヤーに委託しますので固定資産回転率は高くて当たり前です。

売上が半期で2900億くらいあり、固定資産回転率は20倍を超えていますので、この結果は経営戦略と整合します。

また、昨年多額の設備投資を発表した会社であれば、当期は固定資産が増加するのに対して売上は将来に寄与するため固定資産の回転率が下がっていてもそれほど問題ありません。

一方で生産を効率化しますと言っているような会社が固定資産回転率を下げていたらいかがでしょうか?

これは無駄な投資をしているか、効率化以上に売上の減少が激しいということになり投資をすることを考え直す必要が出てきます。

在庫の回転率についても同じです。

アマゾンのような会社が商品ラインナップの拡大を目指している最中であれば在庫の回転率が一時的に下がっていても目標通りの結果であるため問題視する必要はありません。

一方で特に在庫に関する戦略のない会社が在庫回転率が下がっていたらどうでしょう。

これは経営管理がうまくいっていないことを示唆している恐れがあります。

キーエンスは、元々在庫管理がかなりうまくいっている会社で高い在庫回転率を保っていました。

通常在庫の保有が短い会社であっても1か月=回転率12回程度ですが、キーエンスは従来15程度ありました。

一方で直近は在庫回転率が悪化しています。

在庫は、将来の販売予測に応じて保有するものですので、売上の増加に応じて一時的に回転率が悪化することはありますが、これが続くようであれば従来うまくいっていた在庫管理が業態拡大とともにうまくいかなくなったとも推察されます。

※キーエンスは経営戦略をほとんど公開しない企業であるため、この要因は分析できませんでした。

時系列でみることで、企業の変化にいち早く気づくことができますので、ぜひ業界比較だけでなく時系列比較を取り入れましょう。

自己株式残高推移

自己株式の金額を見ることも、企業の姿勢を見るうえで重要です。

必ずしも割高の際に自己株投資を実施することが良いわけではありませんが、

一般的に自己株投資は、株主還元の一つとして投資家に歓迎されます。

自社株買いが株価に及ぼす影響を実務的に分析

貸借対照表には企業が取得した金額での自己株式累計額が載っていますので、これを時系列で並べることで企業が定期的に自己株を取得しているかがわかります。

数々の投資の名著で継続的な自己株買いは高評価であることが語られていますので、こちらも重要な分析として使用できるでしょう。

これも変化がとらえることが重要で、

近年自己株を常に購入していた会社の購入額が減少した→株式が割高のサイン
従来自己株を購入していなかった会社が自己株を購入した→株式が割安のサインor投資先の欠如

と考えられます。

グラフにすることで変化をとらえましょう。

終わりに

いかがだったでしょうか。

今回は貸借対照表の初歩的な読み方から分析手法までを扱ってみました。

分析手法は上げればきりがないですが、投資に重要な分析はほぼカバーできていると思います。

重要なのは指標を眺めることではなく、指標から経営環境を推測することにありますので企業のほかの公開資料も読みこみながら分析をしてみてください。

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