EVA~企業価値を高める経営管理

はじめに

みなさん投資をする際にどのような指標を重視しますか?

また働かれている会社の中でどのような指標が管理対象となっていますか。

多くの場合当期純利益のような会計上の利益をベースとした指標が使われているのでしょうか。

当期純利益をベースとした指標は、株主から資金調達したコストをうまく反映できておらず、必ずしも企業価値最大化に役立つ指標とは言えません。

今回はその弊害を克服するための指標であるEVA (Economic Value Added)を紹介していきたいと思います。

EVAの内容そのものも重要ですが、その背景にあるファイナンスの考え方が重要ですので理解していきましょう。

EVAとはなにか

まず定義から入ってみましょう。

EVAはスターン・スチュワート社というコンサルティング会社が開発した指標で日本語では経済的付加価値と訳されます。

はじめにで書いたように当期純利益が株主に対するコストを反映していないという弊害があることを受けてできた指標ですので、株主資本を含む投下資本に対するコストを差し引く定義となっています。

EVA = NOPAT – WACC ×投下資本(Investment Capital)

※NOPATは法人税控除後の営業利益です。

この式の意味を考えてみましょう。

会社の貸借対照表・損益計算書を分解した次の図をご覧ください。

図のように当期純利益は、

営業利益(事業用資産・負債から生み出される)

+金融収益(非事業用資産の一部から生み出される。)

-金融費用(有利子負債から発生する)

-法人税等(複合的な要因で発生)

で計算されています。

ここで注目してほしいのが緑の純資産部分に対応するコストが加味されていないということです。

株主に対するコストが加味されていないのであれば、株主価値を重視する経営にならない

というごく自然な発想でEVAが生まれました。

つまり

EVA = 当期純利益 – 株主資本に対する費用

= 当期純利益 – 純資産時価(時価総額)×株主資本コスト

が基本的な発想です。

なお株主資本コストについて詳しく知りたい方は下記記事をご参照ください。

時価を利用するのは、株主が期待するリターンは時価がベースで決まるからです。

株主資本コストの計算を徹底解説

最初に上げた定義式では、EVA = NOPAT – WACC×投下資本となっています。

これは、EVAが元々事業を評価するための指標として開発されたという背景があるためで、金融収益やそのほかの特別損益項目を無視しているわけですね。

金融収益、特別損益項目を無視すると

当期純利益 = 営業利益 – 金融費用 – 法人税等

EVA   =   営業利益 – 金融費用 – 法人税等-純資産時価×株主資本コスト

= (営業利益-法人税等) – (有利子負債×負債コスト+純資産時価×株主資本コスト)

=  NOPAT – WACC×投下資本

となるわけですね。

少し計算式を使ってしまいましたが、

単純に事業から得られた利益(法人税控除後営業利益)ー事業を行うために使った資金調達に対するコストという結果にすぎません。

なお定義式は目的に応じて少し修正されることがあります。

例えば余剰資金をため込んでいる会社の資金余剰の運用も含めて分析をしたい場合は、

金融収益とそれを生むために必要だった投下資本も含めてEVAを計算します。

EVAがプラスだと企業価値が上がる?

ものすごく単純な話なんですが、EVAがプラスということは、資金調達のコストを上回ってキャッシュが会社に入ります。

得られたキャッシュを株主に還元すれば、株主資本コスト以上のリターンを株主が得られるため当然株価が上がることになるんですね。

バランスシートの貸方を見れば企業価値 = 負債価値 + 純資産時価(時価総額)となるため、株価が上がれば企業価値も上がります。

EVAのメリット

ここまでのお話でおおむね検討がつくかと思いますが、EVAを利用する一番のメリットは、

投下資本に対するコストが反映されることで、企業価値向上につながる経営判断がなされることです。

EVA経営では花王が最先端を行っていますので、JPXのサイトで公開されている花王のプレゼンテーション資料を抜粋してみましょう。https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/award/nlsgeu000002dzl5-att/file04.pdf

資本のスリム化

特に注目したいのが(3)資本のスリム化です。

利益面だけみていると、投下資本が多く効率が悪いけど黒字の事業は撤退しづらいんですよね。

また、CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)が悪くてもお構いなしになってしまいます。

CCCについては以下の記事が詳しいです。

EVAをCEOや事業部長の評価指標にするとどうでしょう?

WACC8%の会社で、投下資本に対する利益率2%の事業は従来の純利益を目標とする指標であれば

利益を増加させる→事業の継続

となっていました。

EVAを中心に考えれば同事業は、投下資本に対してEVAは6%のマイナスになってしまいます。

CEOや事業部長は、効率の悪い事業を残すと、

EVA悪化→自分たちのボーナス悪化となります。

結果、効率の悪い事業の撤退が進みます。

これが企業価値向上につながるわけですね。

情報の非対称性を解消した資本コストの低下

もう一つ花王のプレゼンテーション資料で面白いところは資本コストを下げることです。

株主は会社の事業の情報が不足していると、リスクが高いととらえてしまい資本コストを高めに見積もります。

この株主の情報不足を経営者がコストとして認識することになりますので、経営者に十分な開示をするインセンティブを与えることになります。

EVA利用時の注意点

さて、ここまで読むと「いいことだらけじゃないか、、、」となってしまいますが、実は過去のEVA経営を導入し、すでに廃止している会社も多くあります。

その一例がソニーです。

(以下の本を参考にしています。)

ソニーではEVA経営の効果により在庫を削減する効果があったとする一方で、

  1. 投資期にある事業の投資を抑制する
  2. 財務管理に連動した予算管理が定着しており、社内での評判が悪い

といった点が紹介されています。

このようにEVAをただそのまま利用するだけでは、問題となる点も多いので以下の4点に注意しながら使い方を模索してみましょう。

  • 短期志向に陥りやすい
  • コンセプトになじみがなく社内で理解されにくい
  • 事業部別の資本コストが算出しにくく計算が難解
  • EVAが株式市場に左右されてしまう

短期志向に陥りやすい

EVAは単年度の指標というところにポイントがあります。

翌年度以降に利益が上がるような設備投資は、資本に対するコストだけが上がってしまいEVAが下がるため行われません。

また、EVAに特有ではないですが、将来何年もかけて成果が実現するような研究開発費や固定資産を長く使うための修繕費等を遅らせることによって数値を改善できてしまいます。

これらの必要な投資については別途モニタリングの仕組みがあることが重要です。

長期思考を取り入れるためにも通常EVAだけを評価指標とするのではなく、長期的な目標(新規マーケットの開拓数等)を組み合わせて使うことでEVAのデメリットを少なくできます。

社内で理解されにくい

既にPLだけで物事を考えている会社であれば、投下資本や資本コストを社内で理解してもらうことはなかなか難しい課題です。

単純に事業部の人にとって管理すべき課題が増えてしまうので反発が出る恐れも高いです。

多くの会社にとっては例えば事業で重要な固定資産や在庫のみを投下資本と考えるといった簡便的な方法を導入するというのが一つの解決策かもしれません。

事業部別資本コストの算定が困難

資本コストは事業ごとに異なります。

特にソニーのような銀行、保険、家電の製造やスマートフォンまで扱うような会社であれば事業部間で事業のリスクが全く異なり、それに応じた資本コストも当然かわるはずです。

資本コストは通常株価の変動等を利用して算定されますが、株価は会社全体のものしか取れません。

よって事業部別の資本コストの算出が容易でないんですね。

単一の資本コストを使ってしまうとリスクが高いために期待収益率が高い事業が選ばれやすくなるというデメリットがあります。

多くの会社では、会社内の事業が類似しているのであまり問題となりませんが、ソニー等多角化が進んでいる会社の場合はβ値の業界平均の数値などを利用して補正してあげる必要があります。

β値がわからない方はこちらをご参照ください。

EVAが株式市場に左右されてしまう。

企業全体にEVAを適用する場合には、投下資本は時価総額+ 有利子負債で決まります。

ここで企業がある有望な投資先に投資し、プレスリリースを発表したとしましょう。

この投資は本来EVAを上げるはずですが、プレスリリースにより時価総額が上がってしまいます。

よってWACC×投下資本の部分も上がってしまうんですね。

しばしばEVA経営を推進する会社では、EVAが0かマイナスになってしまうようなことがあり得ます。

いい経営をしていてもEVAが0になってしまうと経営者やマネージャーの評価指標としてはイマイチです。

これは、

  • WACCをどの期間のものを使って計算するか明確化
  • 投下資本の計算方法を明確化

することで解決できます。

例えばWACCであれば

期初時点の負債・純資産比率及び期初以前2年間の株価変動を用いて計算する。

投下資本であれば、

株式発行・自己株式がないケースでは期初の投下資本+有利子負債の増減額÷2を投下資本と考えるような方法が考えられます。

終わりに

いかがだったでしょうか。

やはり継続的にEVAを適用している会社が少ないだけあって、課題も多いと感じられたかもしれません。

私個人としてはEVAはデメリットがありつつも企業価値向上に有益な指標という点は変わらないと思っています。

日本企業がファイナンスに強いディスクロージャーができるよう必要な視点ではないでしょうか。

ご質問等ございましたらぜひツイッターまでご連絡ください。

 

 

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