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はじめに
今回は日本で最も会計的に難しいといっても過言でないソフトバンクの財務分析です。
ソフトバンクの財務諸表は実は会計士の人が読んでも難しいです。
IFRSの会計基準に加え、複雑な金融取引が多くもはや携帯事業を理解するだけではまったくこの企業の業績が予測できない状況になりました。
今回はソフトバンクにまつわる複雑な会計をわかりやすく解説し、皆さんがソフトバンクに投資する前に業績がなにによって動くか理解できるようになることが目標になります。
今ソフトバンクの業績を大きく動かす要因
さて、まずはソフトバンクの決算短信の概要ページ(3p)からソフトバンクにとっていま最もホットなトピックを探ってみましょう。

まずはなんといってもソフトバンク・ビジョン・ファンド!
出資総額がなんと917億ドル(9兆円超)。これはどれくらいすごいかというとギリシャや台湾、ポルトガルの国家予算くらいの規模になります。
この第1四半期には投資は完了し、出資先の成長を待つことになるようです。
営業利益が当期3,460億円と全体の1/4を占めています。
米国税制改正の影響6,850億円は当期だけなので無視してもよいでしょう。
これは、米国の連邦税の税率が35%から21%に下がったことにより将来税金が上がることを見込んで計上していた負債が減少した影響になります。
税効果会計と呼ばれるものですが、興味があれば下記を参照ください。
https://kessanmaster.com/2018/05/02/%E7%B5%B6%E5%AF%BE%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E7%A8%8E%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E4%BC%9A%E8%A8%88%e3%80%80%E7%9B%AE%E7%9A%84%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8C%E3%81%B0%E7%B0%A1%E5%8D%98%E3%81%A0/
そして、アリババのデリバティブ損失6,062億円
これまた莫大な金額なのですが、これはアリババの株式の先渡契約に関するデリバティブ損失です。
今回はこのソフトバンク・ビジョン・ファンドについて詳しく見てみましょう。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドがわかる!
さて、先ほどもお話しましたが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドは投資総額9兆円超の巨大投資ファンドです。
法的仕組みはリミテッドパートナーシップという形態がとられています。
以下ソフトバンクの2017年10月〜12月期説明資料から引用しましょう。
引用https://cdn.softbank.jp/corp/set/data/irinfo/presentations/analyst/pdf/2017/investor_20180209_02.pdf

ちょっとごちゃごちゃしていてわかりにくいかもしれません。
簡単にいうとこのファンドへの出資者は、2種類にわかれます。
- General Partner:投資銘柄の選定など実質的な運用の責任を負う出資者 通常無限責任を負う
- Limited Partner:出資をしてGeneral Partnerに運用をしてもらう参加者 名前の通り出資額が最大損失となる有限責任です。
ソフトバンクは子会社がGeneral Partnerになっています。
出資額は、ソフトバンクが281億で約30%の出資割合になっています。
一般人が絶対勘違いする落とし穴
さてここが今回の記事の超注目ポイントです。
最初のサマリーでソフトバンクビジョンファンドの株式評価額が3,460億円営業利益を押し上げたとの記載がありました。
普通に考えればソフトバンク・ビジョン・ファンドが儲けた金額のうちソフトバンクに帰属する部分の30%が3,460億円と考えたいところだと思います。
実はこれが違うんですね。
投資総額9兆円に対して儲かった金額全額がソフトバンクの営業利益に入ってます。
IFRSでの考え方はこうなんです。
「ソフトバンクはGeneral Partnerだから完全にファンドの活動をコントロールできる立場にある。だからそのすべての業績を連結すべきだ」
では、残りの70%はソフトバンクに帰属しないはずなのにどこに行くかというと
赤丸の非支配持分というところに入っています。
1株当たり利益を見る際には親会社の所有者に帰属する利益から計算されていますので、問題ないのですが、営業利益を見る際にはソフトバンクの株主とは関係ない利益が入っているということがめちゃくちゃ重要です。
ビジョン・ファンドの内訳と会計処理
では、実際にどのような会計処理がなされるかというと決算説明資料には難しそうな言葉でFVTPLで処理されますと書いてあります。
これは実はすごく簡単な話です。
ファンドの投資先である株式をまず公正価値で評価して、その評価差額を営業利益に入れましょうというだけのことなんですね。
FVTPLはFair Value through Profit and Lossで、そのまま訳すと損益を通って評価される公正価値ということです。
内訳の銘柄も実はすでに公開されています。

一番有名なのはNVIDIAでしょうか。AIや仮想通貨のマイニングで一躍有名になりすさまじい株価の上昇を記録している米国企業です。
このほかにもSlacks等の有名サービスもありますが、一般の人がしらないベンチャー企業が多いですね。
ここで注目ポイント②です。
これらの企業の多くは上場していません
しかし、IFRSでは、非上場会社でも公正価値で評価しなければなりません。
市場で取引されていないものを公正価値で評価しようとするとどうすればいいでしょうか。
これは、DCF法やマルチプル等の一般的な企業買収に使われる手法でソフトバンク自身が評価することになります。
もちろんこれくらい大規模になりますと企業価値評価を専門とする外部スペシャリストを使って評価しますし、監査法人も慎重に監査はします。しかし、
企業価値は正解がなく、誰が評価するかによってかなり幅がある!
そしてソフトバンクは外部の評価機関に彼らの想定する仮定を伝え、それをもとに評価してもらうことができます。
監査法人は例えば「長期成長率が30%だ!」といわれればさすがにおかしいでしょうといえますが、5%のところを6%と評価されても正解がないので間違えとはいえません。
この長期成長率を少しいじるだけで評価は大きく変わってしまいます。
彼らの評価方法がアグレッシブすぎないかに注意が必要です。
2018年6月24日追記:ソフトバンクの2018年3月期有価証券報告書によれば、これらの株式評価は取引事例法(つまり実際の売買の記録から公正価値を算定する方法)とのことでした。これであれば恣意性は入りにくいものと推察されます。取引事例が少ないものは、マルチプルによる評価方法が主に使用されているようです。
6月下旬に公表される有価証券報告書にはここに注目!
ソフトバンクに投資するならもうすぐ出る有価証券報告書で必ず読んでほしい部分が2つあります。(執筆時点でまだ文章が見れないため投資に確実に有用とは言えませんが。。)
- 金融商品の公正価値注記(注記番号27)
ここには、公正価値の評価方法が記載されております。
専門家が見なければ何が書いているのやらと思うところも多いのですが、

このレベル3に分類した金融商品の公正価値測定に注目しましょう。
レベル3とは非上場株式のような市場で観測できない情報(例えば将来のキャッシュフローの予測等)を使った評価方法のことを言います。
ここに重要な仮定が記載されています。2017年の開示がないため2018年3月期に部分が開示されるか定かではないですが、ここの永久成長率が高すぎる、資本コストが低すぎるということがあれば要注意です!
2018年6月24日追記
前述の通り評価方法は主に取引事例法でした。マルチプルには、EBITDA倍率が使われているようですが、この倍率の開示はありませんでした。収益(売上)の倍率は、0.8倍が使用されているようです。
これは高すぎる水準ではないと思いますのでひとまず評価方法は安心して問題ないかと思います。(よく考えれば四半期報告書で同じ開示がされていたのは秘密です。)
- 金融商品注記(注記番号26。)
ここには金利変動や為替リスク等の市場リスクが、会社の金融商品評価にどのような影響を与え、その結果どの程度損益が増減するかが記載されています。
どのマーケット指標を注視しなければならないかがわかるのでじっくり読むとよいかもしれません。(なおこの項目はIFRS特有ですので日本基準の会社にはありません。USは一部同様の注記あり)
おわりに
さて、今回はボリュームの都合上ソフトバンク・ビジョン・ファンドの説明のみになります。
ソフトバンクは、金融取引の宝庫であり、財務を勉強するにはもってこいの会社です。
もちろん、日本を代表する経営者である孫さんが経営する会社なので投資対象としても魅力でしょう。
今投資すべきかをじっくり考えながら金融・財務の勉強をしてはいかがでしょうか。
次回は、アリババ株式を使った資金調達、それに伴い発生した巨額のデリバティブ損失の実態に迫っていこうと思います。
1週間以内にはアップ予定です。
ご不明な点とうございましたらコメント又はツイッターでご連絡ください。
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