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はじめに
企業価値評価や株式価値評価の際に「株主資本コストってなに?」「どうやって計算をしてるんだろう?」と思ったことはありませんか。
今回は誰でも資本コストが計算できるよう、CAPMを用いた資本コストの計算を徹底解説していきます。
なお、他の記事でも株主資本コストの計算は行っておりますので、こちらも併せてご参照ください。
今回はより深掘りした実務に使われている方法をご紹介したいと思います。
そもそも資本コストってなに? 3つのコストを抑えよう。
まず、最初に資本コストの定義を押さえておきましょう。
資本とは事業をするのに必要なお金です。
お金を借りたときがわかりやすいですね。
お金を借りたときには利息を払わないければいけません。
現在の優良な上場企業であれば借入の利息は3%程度でしょう。
この3%が負債コストになります。
では同じように株主からお金を集めた場合はどうでしょう。
株主には、企業が一定額を払う義務はありませんが、株主もボランティアでお金を払っているわけではありません。
株主は、配当又は株価の値上がりを期待して株式を出資するわけで、その期待が裏切られれば経営者をクビにしてしまうでしょう。
経営者からすれば株主に対しても、一定額の配当をするか、株価を上げるために利益を会社に留保する責任を負っているわけですね。
この株主が満足するリターンの水準のことを株主資本コストと呼んでいるわけですね。
では、企業が事業をする際に資金調達した際のコストはいくらになるでしょうか。
数学に強い方ならパパっと計算してしまうかもしれません。
企業は、前述の負債と資本(株主から集めた資本)を組み合わせて資金を調達します。
よってコストも負債のコストと資本のコストを平均してあげないといけません。
この企業が投資する際に使う資本コストを加重平均資本コスト(WACC)と呼びます。
税金がなければ、
WACC = 負債コスト× 負債の割合 + 株主資本コスト×株主資本の割合
となります。
税金がある場合には、支払利息は費用になって税務上の所得が減るため、税金を減らす効果があります。(株主への配当は費用でないためこの効果がありません。)
これを反映させるために
WACC = (1-税率)× 負債コスト ×負債の割合 + 株主資本コスト 株主資本の割合となります。
-税率を加えることで税金が少なくなってコストが安くなる効果を反映しているわけですね。
今回はWACCではなく、株主資本コストを計算するのがメインの記事になりますので、詳細な計算は省きましょう。
CAPMで株主資本コストを計算
3つの資金調達に関するコストを見たところで本題の株主資本コストを計算する方法を見てみましょう。
ほとんど場合株主資本コストの計算にはCAPM(Capital Asset Pricing Model)という方法が用いられます。
株主資本コスト = リスクフリーレート + β × マーケットプレミアム
まず直感的に話しましょう。
リスクフリーレートとは、すごく安全な資産に投資した際のリターンのことです。
たとえば、銀行預金や国債の利率がこれに当たります。
株は、大きく儲けられることもあれば大損することもあります。
よって頭のいい投資家であれば、このリスクに見合って大きいリターンを要求することになります。
よく「ハイリスク・ハイリターン」「ローリスク・ローリターン」といった言葉を耳にすると思いますが、それと同じことですね。
株式市場に平均的に投資した場合に安全な資産よりもどれだけ多いリターンが必要かというのがマーケットプレミアムになります。
CAPMは、これを少し発展させて、じゃあ個別銘柄の場合のリターンはどうなるのだろうと考えます。
例えばこのブログにたびたび登場するコカ・コーラで考えてみましょう。
市場平均よりも株価の変動は、半分くらいしかありません。
この場合リターンも株式市場全体へ投資するよりも安全なので小さくてもいいはずです。
リスク(=株価のブレ)が半分なのでプレミアムもマーケットプレミアムの半分でいいでしょうというのがCAPMの発想です。
逆にリスキーな会社、例えばモンスターストライクで一時復活したミクシィなんかは、日本の株式市場よりも2.6倍程度大きくぶれますので、安全利子率を超えるリターンも2.6倍必要になります。
このマーケットに対して何倍のリスクがありますか?という指標がβ(ベータ)値と呼ばれます。
本当にリスクが2倍なら追加的なリターンも2倍でいいの?という方のために図で説明してみましょう。

リスクフリーレート3% マーケットプレミアム5%の例で図は作成しています。
ベータが0(つまりリスクがゼロ)のところがリターン3となっており、ベータが1(つまり株式市場全体に投資した場合)のリターンがリスクフリーレート3% + マーケットプレミアム5 %=8%となっていることがわかりますね。
ここで株式A(β=0.5 リターン=4%)と株式B(β=1.2 リターン=15%)を例にとって考えましょう。
市場が効率的であれば、株式Aに投資する人はいません。
安全な資産への投資を50%、株式全体のインデックスへの投資を50%にすれば同じベータ値(=リスク)でより高いリターンが得られるためです。よってこの株式Aは、売られ株価が下がります。
株価が下がればリターンが改善しますので、安全資産と国債を半分ずつ持った状態と同じリターンに落ち着きます。
株式Bはβ値1.2ですので、お金を安全利子率で0.2借りて、株式市場のインデックスに投資することで同じベータ値のポートフォリオを作れます。リターンは9%です。
株式Bは同じリスクで高いリターンが得られる株ですので、買いが殺到します。
結果株価が上がり、期待リターンが下がってしまうわけですね。(得られる収益は一定だが、投資額が大きくなるのでパーセンテージで見たリターンは下がります。)
最終的には、どのような投資も安全資産とマーケットへの投資の組み合わせで決まるこの直線の水準に落ち着くことになるわけですね。
CAPM使用上の注意点と実務上の取り扱い
さて、いつも前置きの長い私のブログもようやく本題に差し掛かりました。
実務で使われるCAPMは先ほどの数式と少しだけ違います。
株主資本コスト = リスクフリーレート + β × マーケットプレミアム + 小規模会社プレミアム
最後に一つ追加されています。正式な訳語がよくわからなかったので、筆者訳ですがSmall size premiumと呼ばれるものです。
これは、株式投資の理論でいわれる小型株効果が理論背景にあります。
小規模な会社に投資したほうが経験則上リターンが高いという理論で、数多くの研究で主張されているんですね。
よって株主が小規模会社に投資する際には、より多くのリターンを期待するだろうということでこの調整が必要になります。
アメリカの企業で時価総額100億円の会社であれば3~4%くらいのイメージです。
日本の企業では、7%程度とも言われています。
ここは正直お金を払わないと入手できない数字なので個人投資家であれば、上記の3%~7%程度を勘で決めるしかなさそうです。
調査会社イボットソンアソシエイツが28,000円で売っているようですが、ちょっとこの個人の投資のために買いたい金額ではないですね。。
リスクフリーレート
リスクフリーレートは基本的には国債の数字を使います。
以上。
といいたいところですが、少し論点があります。
どこの国の国債を使うか?
これは、主たる事業を行っている国の国債のレートを使ったほうがいいでしょう。
これは国債の利率がどう決まるかを考えるとわかります。
国債のレート = 実質利子率 + カントリーリスクプレミアム + 期待インフレ率
カントリーリスクプレミアムは日本やアメリカなら気にする必要がはありません。(リスクフリーレートに使うので会っては困るのですが、、イタリアとかであれば検討の余地ありです。)
ここで気にしなければいけないのが期待インフレ率なんですね。
例えばアメリカのインフレ率は2.5%で、日本にインフレ率が1%くらいです。
このくらいの差であればあまり気にする必要がないのですが、インフレが激しい国でビジネスをすると問題になります。
将来その国の通貨でキャッシュフローが得られます。
この将来のキャッシュフローを現在価値に置きなおすときに将来インフレで価値が下がるのであれば、多めに割り引いてあげなければいけないわけですね。
その国の国債のレートを使えば、将来のインフレを加味したリスクフリーレートが使えるため主たる事業を行う国の国債レートを使うことがベストとなります。
ただし、現在の日本のように緩和をしすぎて異常な金利だ、ということであれば補正することも考えられます。(例えばアメリカの金利-アメリカのインフレ率と日本のインフレ率の差等)
Bloombergから金利情報は得られます。
Bloomberg:https://www.bloomberg.co.jp/markets/rates-bonds/government-bonds/us
概ね10年~30年くらいの期間のものを使いましょう。(特に決まりはないです。)
マーケットプレミアム
マーケットプレミアムは、過去の各リサーチ会社の結果を使うよりありません。
このブログでは、5.8%を利用しています。
参考文献
Fernandez, P., A. Ortiz and I.F. Acin, 2015 “Huge dispersion of the Risk-Free Rate and Market Risk Premium used by analysts in USA and Europe in 2015” Working Paper(SSRN)
(中野誠 2016 戦略的コーポレートファイナンス 日本経済新聞社 Kindle Loc 1170 of 1791 より転載)
私の実務の経験からも大体5~6%というものが多いですね。(日本もアメリカも同じくらいです。)
Principles of Corporate Finance 著者:Brealey Myers Allen 12th Edition 出版社:Mc Graw Hill Educationによれば7.7%という結果もありますが、ほかの実証研究では6%以下が使用されているので、6%程度を使用しましょう。
ベータ値
ベータ値は、過去の株価の変動から算出しています。
よって、
- いつの期間のβを算出するか
- どのマーケットに対するベータ値か
が論点にはなります。
ただし、ここでも神経質になるのはよくないです。
皆が使っているベータ値を使うのがいいでしょうから例えばロイターで出ているβ値を使いましょう。
ロイターのHP(https://jp.reuters.com/)に行って、右上の検索ボックスに企業名を入れれば簡単にわかります。
株主資本コスト = リスクフリーレート + β × マーケットプレミアム + 小規模会社プレミアム
これですべての項目が出そろいましたので、株主資本コストの計算ができるようになりました。
下記の記事では実際に株主資本コストを計算して、株価算定に活かしてますので参考にしてみてください。
終わりに
いかがだったでしょうか。
資本コストはあくまで目安なので、実務でも幅が出てきてしまいます。
ただ、上記の説明の通り順を追えばとりあえずの資本コストは算出できるというイメージは持っていただけたのではないでしょうか。
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